本年度はまず、電子レンズ作用実証のためのレーザー光源開発を目標に研究に取り組んだ。当初計画では年度前半に全ての光源要素を作製する予定であったが、モード同期ファイバーレーザーの開発が難航した。その後、大出力と高い空間モード形状を両立できるフォトニック結晶ファイバを使用してファイバー増幅器の開発に着手したが、保有していた2種類のフォトニック結晶ファイバを共に事故により破損してしまった。結局、コア径25μmのa fewモード・ダブルクラッドファイバを用いて当初目標の出力を得られるファイバー増幅器を完成させたが、パルス圧縮器および波長変換要素の開発が遅れ、年度内に目標のレーザー系を開発するには至らなかった。 一方で、当初計画で使用を想定していた自発共鳴型レーザー蓄積共振器に関連し、フェムト秒レーザーパルスを自発的に発振・蓄積する新しい光学装置を高エ研・早稲田大・広島大のグループと協同で開発することに成功した。また、電子レンズ形成のために検討したレーザー空間変調技術を、独自に開発したレーザー加工装置に応用することで、薄膜を100 nmの分解能でパターニング加工可能な技術の実証を行うことができた。 本年度の9月に、オーストリアのウィーン大学のグループが、本研究計画とよく似た構成で円環状レーザービームによる電子レンズ作用を実証した内容の論文が公開された。これを受けて、年度の後半に本研究計画の見直し検討を行った。レンズ作用の実証用に設計した本装置を、より実用的なデモンストレーションに使用するための、いくつかの候補を得た。また、未だに報告のない負の球面収差の実験的実証を実現するために、電子ビーム観察手法の改案を着想した。加えて、より一歩進んだ、光ビームを駆使した電子ビーム変調技術の理論的検討に着手し、光学レンズにおける色消しレンズに相当する、いくつかの手法を着案した。
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