研究課題/領域番号 |
20H02649
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
矢花 一浩 筑波大学, 計算科学研究センター, 教授 (70192789)
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研究分担者 |
植本 光治 神戸大学, 工学研究科, 助教 (90748500)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 時間依存密度汎関数理論 / 非線形光応答 / 量子流体模型 / 斜方入射 / 2次元物質 |
研究実績の概要 |
本研究は、物質科学の第一原理計算に基づく新しい光科学計算手法を発展させ、光のパルス長と強度そして物質のサイズを組み合わせて可能になる多様な非線形・非局所光応答現象を解明することを目的としている。本年度、以下に述べる進展があった。 金属ナノ粒子の光応答に現れる量子現象に対して電子軌道を用いた記述を行うと、その計算コストがサイズの2乗に比例して増えるため、現実に興味が持たれる数十nmの粒子を調べることが困難であることが知られていた。これに対して量子流体模型を用いた記述が発展しているが、数値計算上の不安定性からこれまで非線形光応答を計算することができなかった。我々は、量子流体模型を等価な1軌道のシュレディンガー方程式に変換することで、電子の染み出しのような量子現象を取り入れつつ非線形光応答を計算することが可能な枠組みを開発することに成功した。 光の物質表面に対する斜方入射は光学現象の最も基本的な問題であるが、高強度パルス光が入射する非線形光学の場合には、これまで理論的な取り扱いが知られていなかった。我々は斜方入射の問題を1次元的な伝搬の方程式に変換することで、第一原理計算に基づく光伝搬計算が可能になる方法を開発した。 2次元物質である遷移金属ダイカルコゲナイトの電子状態はバレー自由度で特徴付けられ、円偏光を用いてどちらのバレーを励起するかを選択できることが知られている。我々は第一原理計算により、高強度なパルス光による非線形励起を用いると、直線偏光でもバレーの選択的励起が可能であるこを示した。そして模型的な分析を援用することで、バレー励起のメカニズムを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、高強度なパルス光と物質の相互作用に関して、時間(超短パルス)、空間(ナノサイズ)、場の強度(高強度光)を制御することにより起こる新たな非線形光応答現象を探索し解明することを目標としている。これまで、金属ナノ粒子の非線形光応答における量子効果を明らかにするとともに、サイズの大きいナノ粒子に対する新たな計算法を開発した。またナノメートルからマイクロメートルの厚さを持つ薄膜からの高次高調波発生に関して、パルスの波形や薄膜の厚さ、さらに入射角を変化させた場合の計算方法を発展させ、単純な物質への応用を行っている。さらに2次元物質の非線形光応答にも展開している。これらの成果がすでに得られていることから、研究は順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、時間・空間・場の強度の軸のうち複数が関わる現象の解明に取り組む。金属ナノ粒子に関しては、電子の染み出しの効果と非線形光応答の関係を明らかにしたい。薄膜からの高次高調波発生に関し、数百ナノメートルからマイクロメートルの領域における伝搬効果を明らかにし、また3次元的な構造体における特徴を明らかにしたい。また、現実の光応答現象を理解する上で重要となる緩和効果に関し、第一原理計算に基づく電子格子相互作用として記述し、非線形光応答に対する影響を明らかにしたい。
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