研究課題/領域番号 |
20H02748
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
北川 裕一 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任講師 (90740093)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 希土類錯体 / 励起状態 / トリボケミストリー / 励起反応 / 発光 / 触媒 |
研究実績の概要 |
物質に力学的な力を加えたときにその物質が励起状態を形成し、発光する現象のことをトリボルミネッセンスという。申請者は希土類錯体を基盤としたトリボルミネッセンスの研究を行っており、近年「力学的な刺激で効率的に励起状態を形成する錯体設計」を明らかにしている。本研究ではこの配位子設計に基づき、力学的な刺激で形成する励起状態を利用して「化学反応」を起こせる新しい錯体触媒を創成する。本年度は本目的を達成するために様々な希土類錯体の合成および力学的な刺激による励起反応について検討した。 (1)積層した多環芳香族を導入した力学的な刺激を利用した励起反応:積層した多環芳香族を導入したEu二核錯体を合成した。この錯体に力学的な刺激による励起反応と光刺激による励起反応を比較すると、前者では励起三重項状態から反応が起こり、後者は励起一重項状態および励起三重項状態から反応が起きることが明らかになった。本結果より、希土類錯体を基盤とした励起反応においてスピン選択性を付与できることが示唆された。 (2)水素発生触媒能がある白金錯体と希土類錯体の連結多核錯体の合成と光物性評価:希土類イオンに配位可能なホスフィンオキシド部位に白金錯体を導入した化合物を合成した。本化合物とhfa(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)が配位したユウロピウム錯体とガドリニウム錯体を反応させることにより、白金-希土類連結錯体を合成した。合成した化合物はIRおよびMassで同定し、発光スペクトル、温度依存発光スペクトル、発光寿命評価を行った。その結果、錯形成により白金錯体からユウロピウムイオンへの電荷移動遷移に基づく新しい発光バンドが形成することが明らかとなった。 (3)希土類錯体に触媒特性の付与:希土類錯体そのものに励起状態形成に伴う触媒機能の付与を検討した。配位子の電子構造を精密に制御することで触媒能を発現させることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は本目的を達成するために様々な希土類錯体の合成および力学的な刺激による励起反応について検討した。積層した多環芳香族を導入したEu二核錯体を合成し、この錯体に力学的な刺激を与えたところ、励起一重項状態を介さず、励起三重項状態から反応が起こることが明らかとなった。この力学的な刺激によるスピン選択的な励起反応は当初想定していなかった。このスピン選択的な反応は希土類イオンの種類を変えることで様々な反応に適用できる可能性もあり、大きな発見であると考えている。また、当初予定していた光触媒能を示す白金-希土類(ユウロピウムとガドリニウム)多核錯体の合成に成功しており、今後力学的な刺激による励起触媒反応を検討する予定である。本錯体の励起状態特性について詳細に評価を行ったところ、最低励起状態から白金錯体とユウロピウムイオン間で起こる特徴的な電荷移動発光が生じることが明らかになった。このような電荷分離状態を利用すれば、遷移金属錯体を含めなくてもトリボ励起触媒反応を起こすことができる。そこで様々な希土類錯体で検討したところ強いアクセプター性配位子を用いることで最低励起状態において電荷分離できる希土類錯体があることが分かった。今後、遷移金属錯体を含めなくてもトリボ励起反応を起こせるということで分子設計の幅が大きく広がった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)2020年度合成した種々の遷移金属-希土類多核錯体における力学励起反応を検討する。 (2)力学的な刺激により活性酸素が出る錯体を合成する。そのために励起三重項状態形成に伴い活性酸素(一重項酸素)を効率良く発生させることができる分子骨格を導入した希土類錯体を新規に合成する。この活性酸素生成実験は気相中で行う。ナスフラスコに結晶を入れて、スターラーで攪拌し、力学的な刺激を加えることで反応を起こさせる。我々の保有する高精度の分光装置を用いて一重項酸素の発光スペクトルの測定を検討する。 (3)2020年度の実験において遷移金属錯体を含めなくても希土類錯体の電荷分離状態形成が明らかとなった。そこで、π軌道-f軌道間で光電荷分離可能な希土類錯体の合成を検討する。具体的には強いドナー性の分子骨格をホスフィンオキシド配位子に導入したユウロピウム錯体を合成する。本錯体の光触媒機能およびトリボ励起触媒機能について比較検討する。
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