研究課題
ヒトからヒトまたは動物からヒトに感染症を伝播する能力をもつベクターは、吸血時に宿主体内へ注入する唾液が宿主免疫系を抑制的に制御し病原体伝播を促進する(SAT)。研究代表者は、マダニの唾液分子ロンギスタチンに、皮膚炎症抑制効果が存在することを示してきたが、SAT現象の存否については解明できていない。そこで、マダニ刺咬部の微小環境における唾液・宿主免疫系・病原体の三者間のインタラクトームに着目し、宿主免疫系に作用する唾液分子について、in vitroの免疫細胞実験や遺伝子抑制マダニを使った分子機能解析を通して網羅的に同定する。①bite site インタラクトーム解析:マダニの吸血に必須のBlood pool(BP)形成時点での皮膚病理組織解析を行った。昨年度実施した解析では、刺咬部位には顆粒球やマクロファージ系の細胞が集積しており、融解・脱顆粒が生じている可能性が示された。そこでTUNEL染色にて評価したところ、集簇した免疫細胞に陽性細胞は観察されなかったため、アポトーシスではなくネクローシスによる融解である可能性が示唆された。さらに、抗エラスターゼ抗体を用いて好中球エラスターゼの局在を評価したところ、細胞外に顆粒様の染色を検出した。すなわち好中球エラスターゼがBPの形成に関与している可能性が示唆される。②SAT-RNAi 解析:野兎病菌LVS株(Ft-LVS)を10^7菌体あるいは10^3菌体顕微注入法により飽血マダニへと接種した。その後経卵巣伝播に着目して定量PCR法または菌分離法により解析した。卵および孵化幼ダニは、ペニシリン含PBSで洗浄後、乳剤を作製しDNA抽出と培養を行った。この結果、どちらの投与群においても卵と幼ダニにおいてFt-LVSが検出され、比較的10^3群で高い陽性率が示された。高濃度群では、却ってマダニの免疫を刺激し排除されている可能性が示唆される。
3: やや遅れている
本研究は段階的に研究を遂行し、マダニの吸血部微小環境においてblood poolの形成過程に関する重要な仮説を得ることができた。しかし、SAT理論の構築にとって必須の病原体感染マダニの病原体伝播実験系の作出は現在進行中のため、やや遅れているという評価となった。
最終年度のため以下の研究を予定している。「SAT-RNAi 解析」:一定量の病原体(ランガットウイルスまたは野兎病菌ワクチン株)を顕微注入法により未吸血や飽血マダニへと接種し、病原体感染マダニを準備する。このマダニを用いた伝播試験系の確立をおこなう。その後、特にT細胞の遊走阻止に関係が深い新規唾液分子HlCBP1遺伝子を標的としたRNAi処理をParentalで行い、病原体感染ノックダウン幼ダニを作出する。その後、マウス-マダニ実験系に供し、マウスの血中または皮膚内病原体量について、qPCRやプラックアッセイやコロニー形成法などによって検討する。
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Antioxidants
巻: 11 ページ: 1254~1254
10.3390/antiox11071254