研究課題
ホスファチジル3リン酸 (PtdIns(3)P), ホスファチジル4リン酸 (PtdIns(4)P), ホスファチジルコリン (PtdCho), ホスファチジルセリン (PtdSer) およびホスファチジルエタノールアミン(PtdEth)のレプリカ上での標識方法を確立し、オートファゴソーム膜および液胞内のオートファジックボディー膜の脂質成分について検討した。細胞内の物質代謝過程において自食作用(オートファジー)は哺乳類あるいは植物細胞において重要な役割を担うことが知られている。酵母細胞のオートファジー過程では、オートファゴソームの形成による細胞質の囲い込み、オートファゴソームと液胞融合、それに続いて液胞内にオートファゴソーム内膜由来のオートファジックボディーが形成され、その後オートファジックボディーの崩壊により様々な細胞質内の消化が行われ、特に飢餓時での物質代謝に重要な役割を担うことがわかっている。しかしながら、液胞膜は消化せず、オートファジックボディー膜が限定的に崩壊する機構は長い間解明されてこなかった。そこでオートファジーを誘導した酵母細胞のレプリカ膜を作成し、各脂質特異的に結合するプローブにより標識し、電子顕微鏡を用いて標識の観察を行った。液胞内のオートファジックボディー膜においては、唯一PtdSerのみがオートファゴソーム内膜よりも大幅に増加し、その他の脂質には変化は見られなかった。一方、液胞膜の管腔側の膜(E面)にはPtdSerはほとんど存在しなかった。液胞内に存在するATG15はPtdSerの分解酵素として知られるが、ATG15をノックアウトした酵母細胞では、液胞内に多くのオートファジックボディーが観察され、その膜には大量のPtdSerの標識が観察された。これらの結果から、オートファジックボディー膜での選択的なPtdSerの増加が、液胞内でのオートファジックボディーの選択的崩壊機構の一つであると示唆される。
2: おおむね順調に進展している
ホスファチジルセリン(PtdSer)とホスファチジルエタノールアミン(PtdEth)およびイノシトールリン脂質であるPtdIns(4)PとPtdIns(3)Pの凍結割断レプリカ標識法を新たに開発し、現在、哺乳類細胞および酵母細胞の細胞膜、種々の細胞内小器官およびオートファゴソームにおける各リン脂質の微細局在を検討中である。現在、これらの各種器官での生体膜における各リン脂質の役割と微細分布の関係を検討中であり、我々の研究はおおむね順調に進んでいる。
1)基盤技術2(逆転レプリカ脂肪酸標識法), 3(相補的レプリカの作成・標識法)を用いた解析を行い、どこで膜脂質の非対称性分布が形成されるのかを決定する。また脂肪細胞、肝細胞、癌細胞でも基盤技術2, 3を適用した解析を行い、種々の現象時の膜脂質の二次元・三次元(表裏)分布について検索する。特にラフト・カベオラなど膜ドメインの表裏の対応、脂肪滴形成、細胞接着・運動における膜脂質動態を重点的に解析する。2)基盤技術4(ホスファチジルコリンの代謝標識)を用いて合成後の膜脂質の経時的分布変化を追究する。細胞内脂質輸送・代謝、細胞増殖・細胞死に関する種々の現象を誘発した際の影響を解析するほか、オートファジー誘導時の隔離膜に注目して解析する。3)膜脂質の非対称性分布形成に関与するflippase, scramblase、膜脂質代謝・合成経路の特定の酵素などを欠損する酵母変異株を入手または作製する。基盤技術2-4を全て動員し膜脂質の分布・動態を正常対照株と比較検索する。酵母での脂肪滴形成過程の解析も行う。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件)
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