研究課題/領域番号 |
20H03262
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
黒木 俊介 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (50735793)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 性決定 |
研究実績の概要 |
ほ乳類の性はY染色体上の性決定遺伝子Sryの発現の有無によって決まる。近年、Sry発現にエピゲノムの制御が重要であることが明らかになってきた。ヒストンH3の9番目リジン(H3K9)のメチル化は転写抑制のエピゲノムマークである。H3K9脱メチル化酵素のひとつJmjd1aは、Sry遺伝子座に作用してH3K9のメチル化を外し、Sryの転写活性化を促す。しかし、Jmjd1aがどうやってSry遺伝子座を認識しているのか、その機構は分かっていない。本研究では、Biotin化酵素 (TbID) による近依存性標識法を用いて、生殖腺におけるJmjd1aとの相互作用タンパク質を同定し、Jmjd1aがSry遺伝子を特異的に標的とするメカニズムの解明を目指す。 今年度は、昨年樹立したJmjd1a-TbID ES細胞を用いて、JMJD1A-TurboIDと相互作用するタンパク質群を質量分析により同定した。同定したタンパク質の中から、DNAやクロマチンに結合する可能性のある28個のタンパク質を候補として絞り込んだ。さらにこの中から、エピジェネティック制御への関与が報告されているBCORに着目して研究を進めた。まずはBCORとJMJD1Aが実際に相互作用することを共免疫沈降法により確認した。次にBcor欠損ES細胞を樹立し、BCORの欠損がJMJD1A/Bの機能に及ぼす影響を調べた。ウェスタンブロッティングと細胞免疫染色の結果、この細胞ではグローバルなH3K9me2レベルの変化は観察されなかった。一方で、RNA-seq解析の結果からBcor欠損ES細胞とJmjd1a/b欠損ES細胞で発現変動する遺伝子の一部が一致することが明らかになった。以上の結果を合わせて考えると、BOCRは特定の遺伝子座にJMJD1A/Bを呼び込み、その領域の脱メチル化を促す分子である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、Jmjd1a-TbID遺伝子座のJmjd1a CDS末端に2A-peptidetとTbID-NLS配列を挿入したノックインマウスをCRISPR/Cas9ゲノム編集により樹立し、生殖腺体細胞を用いた質量分析の際のbaitのspatial referenceに用いる予定であった。しかし標的配列のゲノム編集効率が低くこのマウスを樹立することができなかった。そこで代替案として、Jmjd1a-TbIDノックインマウスES細胞を用いて質量分析によりJmjd1aと相互作用するタンパク質を探索し、クロマチン制御に関わる可能性のある28個の核内タンパク質を同定した。
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今後の研究の推進方策 |
Jmjd1aと相互作用する可能性のある28個のタンパク質について、申請者が既に取得している胎生11.5日生殖腺の遺伝子発現リストと照合し、生殖腺に特徴的な発現を示す遺伝子と一致した場合、それらをJmjd1aがSry遺伝子を特異的に標的とする際のコファクター候補分子としてリストアップする。このうちJmjd1aと結合し、遺伝子特異的にH3K9me2の脱メチル化に関わる可能性があるBcorについて、優先的に解析を進める。具体的には、JMJD1A, BCOR、H3K9me2に対する抗体を用いたクロマチン免疫沈降実験をおこない、BCORとJMJD1A標的遺伝子座が一致するか否か、またBcor欠損によって標的遺伝子座のH3K9me2のレベルが変化するかどうかを検証する。ポジティブな結果が得られた場合は、Bcor欠損マウスを作製し、Sry遺伝子の発現とSry遺伝子座のH3K9メチル化レベルに影響があるか調べる。我々はBcor以外の候補因子として詳細な機能がまだ分かっていない新規のZinc Fingerタンパク質を見いだし、細胞培養実験系でこのタンパク質を強制発現させるとH3K9メチル化レベルが大幅に変化することを見いだしている。IMPCのデータからこの遺伝子の欠損マウスは出生前後で致死となることが示唆されていることから、この遺伝子のfloxマウスを作製し、Nr5a1-Creマウスを交配することで、生殖腺体細胞とSry発現におけるこの遺伝子の関与も検証する。
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