ほ乳類の性はY染色体上の性決定遺伝子Sryの発現の有無によって決まる。近年、Sry発現にエピゲノムの制御が重要であることが明らかになってきた。ヒストンH3の9番目リジン(H3K9)のメチル化は転写抑制のエピゲノムマークである。H3K9脱メチル化酵素のひとつJmjd1aは、Sry遺伝子座に作用してH3K9のメチル化を外し、Sryの転写活性化を促す。しかし、Jmjd1aがどうやってSry遺伝子座を認識しているのか、その機構は分かっていない。本研究では、Biotin化酵素 (TbID) による近依存性標識法を用いて、生殖腺におけるJmjd1aとの相互作用タンパク質を同定し、Jmjd1aがSry遺伝子を特異的に標的とするメカニズムの解明を目指す。 今年度は、JMJDA1と相互作用するタンパク質の候補の中から最も強く結合する可能性の高い新規のZnフィンガータンパク質 (仮にZFPと表記)に着目して研究を進めた。最初に、HEK293Tによるタンパク質の過剰発現の実験系を使い、共免疫沈降法によってJMJD1AとZFPが実際に結合することを確認した。ZFPは、構造予測から、Znフィンガーモチーフが集約するドメインと Helix-Turn-Helixが集約するN末端ドメインもつことが示唆される。これらの領域の変異体ZFPとJMJD1Aとの相互作用を調べた結果、ZFPとJMJD1Aの相互作用には、ZFPのN末端側が重要であることが明らかになった。次に、ZFPがSry遺伝子座の制御に関わっているか検証する目的で、ZFPのZnフィンガーを欠損するマウスを作製し、性転換の表現型を調べた。結果、このマウスでは性転換は観察されなかった。現在、ZFPのN末端ドメインを条件的に欠損するマウスの作製を進めている。
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