より高質で網羅性の高いエピゲノムデータを得るため、イヌザメのゲノムアセンブリの改善を図るとともに、前年度までに「先進ゲノム支援」において生リードの取得を行ったトラザメのゲノムアセンブリにまず取り組んだ。その結果、DNA配列の長さと本数の両面で、既知の核型(イヌザメ2n = 106; トラザメ 2n = 64)やゲノムサイズ(イヌザメ 4.7Gb; トラザメ 6.7 Gb、ともにハプロイド核ゲノム量)を反映した網羅性のゲノムアセンブリを得ることに成功した。これら両方の種において、他グループからの近縁種のゲノムアセンブリを凌駕する完成度を達成した。さらに、移行期間は経つつも研究拠点が関西から静岡へ移動したことも関係し、両方の種について、胚試料の入手ルートを再考する必要が生じていたため、イヌザメについては関東の水族館からの供給体制を模索し、いっぽうで、トラザメについては自らの研究室における成魚の飼育・繁殖体制を模索した。その結果、潤沢とは言えないまでも、目的に十分な胚を確保する体制を確立することに成功した。そこで、新鮮な胚を利用して、当初の計画に照らして未取得であったエピゲノムデータを整備した。この過程では、研究室の助教と大学院生、ならびに技術補佐員からの多大な努力と知恵が原動力となったことを書き添えておく。研究課題の実施期間の短くなった2023年度末には、軟骨魚に特有の特徴を有するHoxC遺伝子領域を含め4つのHoxクラスターについて、Hox遺伝子発現制御とエピゲノム状態との関係性を調べる解析にたどりつき、脊椎動物の他の系統の種との類似性に加えて、相違点が明らかになりつつある。実施期間は終了となるが、さらなる比較からのより深い知見が得られる見通しは明るいため、取得したデータを用いた解析を今後も継続する。
|