研究実績の概要 |
がん抑制遺伝子産物p53はがん細胞において約50%が変異しているといわれている。そこで本研究代表者は、「変異型p53を修飾し機能回復させる方法」や「変異型 p53の凝集阻害に着目した方法」に関する評価系の構築を検討してきた。本研究では、蛍光免疫染色により変異型p53を野生型に変換させる化合物を探索した。そして、p53-R175Hを過剰発現する細胞 [Saos-2(p53-R175H)細胞] を用いて、当研究室で保有する天然資源エキスをハイスループットスクリーニング(HTS)し、ヒットした植物内生菌であるColletotrichum属真菌から、変異型p53の細胞内レベルを低下させる化合物colletofragarone A2とその新規類縁体colletoins A-Cを単離した(J. Nat. Prod. 84, 3131-3137, 2021)。さらに、主成分であるcolletofragarone A2は、SK-BR-3 (p53-R175H) 細胞の増殖を0.18 microM のIC50値で抑制した。また、colletofragarone A2をHuCCT1 (p53-R175H) 細胞を移植したマウスに投与したところ、腫瘍体積が縮小したので、in vivoにおいても腫瘍を縮小させる効果があるといえる。引き続き作用機構を調べたところ、colletofragarone A2はHSP90のような分子シャペロンに作用することにより変異型p53を不安定にさせ、プロテアソームによる分解や凝集を誘導させていると考えられる。本研究成果は、Chem. Res. Toxicol.(35, 1598-1603, 2022)で発表した。また、他の真菌からも変異型p53の機能回復物質を単離し、日本生薬学会第68回年会(2022年9月)において成果を発表した。
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