研究課題
本研究では、脂質代謝に焦点をあて、肥満環境におけるTh17/Tregバランスをコントロールする作用を持つ脂質を同定することを目的とした。本年度は、Th17/Treg細胞分化を制御する脂質代謝経路および脂質代謝産物の同定を行なった。ACC1は脂肪酸合成の律速酵素であるが、最上流に位置しているため、どの下流代謝物がTh17/Tregバランスを規定しているか定かではない。これまでの研究により、ACC1より下流で働いている酵素群のCRISPRスクリーニングによって5つの重要酵素を見出している。そのうち最下流で作用している脂質代謝酵素XをT細胞特異的に欠損させ、Th17細胞機能やin vivoでの自己免疫疾患病態への重要性について検討を行った。これまでの研究データと一致して、酵素X欠損マウスではTh17細胞の分化も著しく抑制され、またTh17駆動性の自己免疫疾患であるEAEの病態スコアの改善が認められた。また、酵素X欠損Th17細胞を用いてリピドミクス解析を行ったところ、昨年の研究によって我々が同定したRORgtの脂質リガンドYが有意に低下していることが示されている。現在これらの研究データをまとめ論文投稿中である。また、TregについてはプロテオームとRNA-seqのオミックス解析ツールを用いてTregの恒常性を司る新たな脂質代謝酵素としてAcsbg1を同定した。Acsbg1の組織Tregの恒常性についてぜんそくモデルをもちいて評価を行ったところ、Acsbg1欠損マウスでは肺組織Tregの数が著しく減少し、ぜんそく病態が増悪化することが示された。この内容について昨年論文投稿を行い、Cell Reports誌に受理された。
1: 当初の計画以上に進展している
昨年Treg特異的な脂質代謝酵素を同定し、論文投稿を行い、Cell Reports誌に受理されている。また、Th17細胞のマスター転写因子であるRORgtの脂質リガンドを同定しており、この内容について現在論文投稿中である。研究計画で予定していた内容だけでなくエクストラな実験についても進めており、極めて順調に進展している。
次年度以降は以下に示す研究プランを行う予定である。1. 脂質代謝制御によるTh17/Tregバランス・肥満関連病態のコントロール(2022年度)これまでの研究成果より得られている脂質情報を基に、Th17/Tregバランスをコントロールしうる候補脂質成分を多く含む、もしくはほとんど含まない食餌をオーダーメイドで作製し、マウスに与えることで生体内でのTh17/Tregバランス、および肥満誘導性免疫疾患への影響について評価する。同様に、Th17/Tregバランスを規定するDe novo脂質代謝酵素KOマウス・阻害剤を用いて肥満病態への影響を解析する。2. 高度肥満マウスのT細胞レパトア解析(2023年度)予備実験より、肥満マウスのT細胞では炎症性T細胞に特定のT細胞クローンが増加していることを認めている。この結果について、scRNA-seqおよびscTCR解析を同時に行い、特定のクローン性をもったT細胞がどのような機能を有しているのか解析を行う。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件)
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