研究課題/領域番号 |
20H03525
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村上 善則 東京大学, 医科学研究所, 教授 (30182108)
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研究分担者 |
伊東 剛 東京大学, 医科学研究所, 助教 (20733075)
松原 大祐 自治医科大学, 医学部, 准教授 (80415554)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 免疫グロブリンスーパーファミリ― / 肺がん / 浸潤、転移 / 薬剤耐性 / 免疫チェックポイント |
研究実績の概要 |
「IgSF分子群の特性解明に基づくがんの新規診断、治療法の確立と意義の解明」の課題の下に、以下の3つの項目について研究を実施し、各々、記載の通りの成果を得た。 1.小細胞肺がん (SCLC) の接着分子特性に基づく新規血清診断マーカーの確立と、抗体治療薬開発 :肺がんで特異的に発現する細胞接着分子 CADM1 のスプライシング・バリアント CADM1v8/9 の、患者血清中への遊離断片のペプチドに対するモノクローナル抗体を新規に作成し、従来よりも特異性の高い有望な診断用抗体を得た。2.細胞接着分子による増殖因子シグナルの修飾に基づく、分子標的治療薬耐性がんの克服:大腸がんでがん抑制遺伝子として機能する CADM1 が、細胞膜ラフト上で SRC 結合タンパク質 CBP と結合し、さらに SRC と複合体を形成することにより、SRC シグナルを抑制し、大腸がん細胞で、マウス皮下での腫瘍形成を抑制することを報告した。3.ヒト IgSF 270 分子の網羅的解析による新規免疫チェックポイント分子の同定と機能解析:IgSF 分子間結合を Alpha 法により広範に解析し、IgSF 分子群が1個―数個の特異的結合 IgSF を有することを見出した。細胞接着分子 CADM1 については、6 種の結合 IgSF 分子を同定し、この中で成人 T 細胞白血病・リンパ腫の浸潤の促進には,腫瘍細胞の CADM1 タンパク質と宿主細胞の CADM1、または CADM4 タンパク質とのトランス結合が重要である可能性を示した。 以上の解析により、IgSF 分子群が腫瘍特異的マーカー、細胞膜上での相互作用による増殖因子経路の修飾、異組織細胞とのトランス結合による浸潤能の修飾など、がんの進展において多様な機能を示すことの一部を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1.小細胞肺がん (SCLC) の接着分子特性に基づく新規血清診断マーカーの確立と、抗体治療薬開発 :本年度に新規に作成した診断用抗体は、SCLCを90%以上の特異度で検出することが可能で、しかも従来抗体よりも親和性が10倍程度高く、検出限界濃度を従来抗体の1/10 程度となる sub ng/ml 以下に改善することができた点は大きな成果で、当初の計画以上に進捗していると評価される。 2.細胞接着分子による増殖因子シグナルの修飾に基づく、分子標的治療薬耐性がんの克服:多くのがんでがん抑制遺伝子として機能する CADM1 が、細胞膜ラフト上でチロシンキナーゼ経路のタンパク質群と結合することにより、その活性を修飾するという比較的新しい概念を示すことができ、さらに予備実験でCADM1-METの相互作用も見出している点で計画通りに進捗していると評価される。 3.ヒト IgSF 270 分子の網羅的解析による新規免疫チェックポイント分子の同定と機能解析:IgSF 分子間結合を Alpha 法により網羅的に解析する手法と資材を確立したこと、また、ATLに特徴的に認められ、予後不良の一因ともなっている臓器浸潤の分子機構に、ATLの診断マーカーとして確立されている CADM1が積極的に関与することを示した点は、診断標的がそのまま治療標的になりうる点で今後の発展が期待され、当初の計画以上に進捗していると評価される。
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今後の研究の推進方策 |
1.小細胞肺がん (SCLC) の接着分子特性に基づく新規血清診断マーカーの確立と、抗体治療薬開発 :SCLC の特異抗体については、サンドイッチ法による血清診断システムプロトタイプを作成し、多数例の検証を行う。また、先行研究で作成した細胞膜発現 CADM1 細胞外断片を認識するモノクローナル抗体の中から高親和性抗体を選定し、SCLC 細胞への in vitro ADC 活性を検討し、SCLC 治療の可能性を検討する。 2.細胞接着分子による増殖因子シグナルの修飾に基づく、分子標的治療薬耐性がんの克服:SRC に続いて、増殖因子受容体 MET と CADM1 との相互作用による HGF 分子経路へ CADM1 の作用を検討し、MET 経路活性化腫瘍に対する CADM1 を介した抑制作用の可能性を検討する。 3.ヒト IgSF 270 分子の網羅的解析による新規免疫チェックポイント分子の同定と機能解析:IgSF 分子間結合を Alpha 法等により検索し、SPRi 法等により確認する実験を続ける。また、見出された IgSF 分子間結合の生物学的意義を、がん細胞の浸潤、転移、また腫瘍免疫チェックポイントの見地から検討する。分子機構が解明された結合に対しては、培養細胞や動物実験、ヒトでの組織発現等の情報とともに、ヒトでの生理的、病理学的意義を明らかにする。 以上の解析により、IgSF 分子群が腫瘍特異的マーカー、細胞膜上での相互作用による増殖因子経路の修飾、異組織細胞とのトランス結合による浸潤能の修飾など、がんの進展において多様な機能を示すことの一部を明らかにした。
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