研究実績の概要 |
AβによるDNA傷害を凝集tau存在下でも修復する方法を見いだすことを目標とした.その為に以下の2段階の検討を行った. (a) ヒト剖検脳において病理学的,生化学的検討を行いBRCA1と共凝集するtauにアイソフォーム特異性があるかを明らかにした AD以外のtauopathyの剖検脳においてもBRCA1免疫染色や生化学的解析を行い,tauとともに凝集する現象が見られるかを検討した.これによりBRCA1の機能喪失がAD特異的か他のtauopathy全般的な現象かが検討可能であった.さらに,tauの3R/4Rアイソフォーム別による共凝集の差異が明らかとなった.Pick disease,corticobasal degeneration,progressive supranuclear palsyを用いた少数例での病理学検討ではBRCA1の機能喪失はtauopathy全般に生じている事を示した(M Kurihara, et al., Brain Sci). (b) In vitro tau凝集モデルでBRCA1の共凝集に必要なドメインを決定した 細胞モデルにおいてtauは強制発現のみでは凝集はしない.このため,(1)で得られた情報を元にin vitroで特定のtau・アイソフォームを過剰発現した細胞内に凝集を誘発するseedを加え凝集体を出現させる方法論を利用した.そこに既にBRCA1の変異で生じる遺伝性乳癌・卵巣癌症候群において判明している機能ドメインをもとに作成したBRCA1の欠失,変異体を強制発現することで共凝集に必要なドメインを決定した.長い領域の欠失変異体を用いた予備的検討ではBRCA1の凝集関連ドメインの存在が示されるため,より細かな変異体作成により正確な部位が決定できた.
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今後の研究の推進方策 |
BRCA1, tau共凝集を阻害する物質もしくは配列を明らかにする BRCA1凝集を阻害する物質を探索する.既にスクリーニングに使用する細胞として,培養細胞中に蛍光蛋白質VenusのN末端とtauの融合蛋白質及びVenusのC末端とBRCA1の融合蛋白質を共発現し,tauのseedを加えることで共凝集を誘導するモデルを作成し,その性能,条件などの検討を終えている.また,創薬等先端技術支援基盤プラットフォームとの協議を終え,その支援によるvalidated compound library (3,400種類)及びcore library(9,600個)等の提供を得ることも決定している.モデル培養細胞をそれらの物質で処理する事で,共凝集を抑制可能な物質のスクリーニングを完了する.得られた薬剤の効果はこの系を使用し,2次,3次スクリーニングを行い,最終的なシードを得る.一方で,薬剤によらない方法も検討する.このためには,(2)で得られた共凝集に必要なBRCA1のドメインを明らかにすることで,そのドメインを欠失した変異BRCA1やドメインを他の蛋白質の機能ドメインに入れ替えることで作成するキメラ蛋白質の発現によるtauと共凝集せずにDNA傷害を修復する方法も決定する.以上により,凝集tau存在下でもBRCA1の機能回復が得られる方法を明らかにする.
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