研究実績の概要 |
申請者は,Alzheimer病(AD)でtauとBRCA1の共凝集によるDNA傷害の蓄積が神経細胞の機能低下の直接的な原因であることを明らかにした(Mano, et al., PNAS, 2017).一方で,DNA傷害を生じるメカニズム,生じたDNA傷害がどのようにゲノムDNAを変化させるのか,神経細胞におけるBRCA1のDNA修復機構は不明であり,それらを明らかにするために以下の様な目標を立案した. 1)AβがDNA傷害を惹起するメカニズムを解明する 2)AβによるDNA傷害がゲノム構造変化と遺伝子発現に与える影響を明らかにする 3)TauとBRCA1の共凝集を阻害する方法を得る ADの病態においてamyloidβとリン酸化タウの重要性はこれまでも指摘されてきたが,これらがどのように神経細胞の機能を障害するかは明らかではなかった.実際,認知症期のADではAβをターゲットとした根本治療薬の開発の失敗が続いており,神経機能に対してより直接的に影響を与えているターゲットの発見が求められてきた.申請者は,神経細胞特異的メチローム解析を端緒として,ADではDNA傷害の蓄積が病態と直結していることを示した(Mano, et al., PNAS, 2017).この研究では,A&は神経細胞のゲノムDNAの二重鎖切断を誘発するが,A&のみが脳内に存在する病初期ではBRCA1がDNAを修復しており,神経細胞機能は保たれていることが分かった.一方で,神経細胞内にリン酸化tau凝集体の蓄積が生じる進行期ADでは,BRCA1はリン酸化tauと共凝集して、その機能を果たせなくなる.つまり,進行期ADではBRCA1の機能が障害され,A&毒性によるDNA傷害を代償できなくなり,DNA傷害が蓄積して神経細胞機能低下と細胞死へのカスケードが不可逆的となることが判明した.
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