研究課題
抗NeuN抗体を用いたセルソーティングにより、脳特異的Nsd1コンディショナルノックアウトマウス(Nsd1-cKOマウス)の海馬から成熟神経細胞核を分取した。これらの細胞核を用いて、Cut&Tag法にてゲノム網羅的なヒストン修飾(H3K27Ac、H3K27me3、H3K36me2、H3K36me3)を解析した。加えて、昨年度までに行った全ゲノムDNAメチル化解析(EM-seq)とトランスクリプトーム解析(RNA-seq)のデータも一部統合して解析した。Controlと比べてNsd1-cKOマウスでは、遺伝子間領域でH3K36me2の低下、H3K27me3の上昇、DNAメチル化の減少を認めた。Nsd1-cKOマウスで発現が減少した遺伝子のうちトップ5を解析したところ、プロモーター領域のH3K27Acの減少を認めた。このうち2つの遺伝子では、エンハンサーと思われる領域のH3K27Acの減少とH3K27me3の上昇、およびH3K36me2の減少を認めた。一方、Nsd1-cKOマウスで発現が上昇したトップ5の遺伝子はプロモーター領域のDNAメチル化の減少を認めた。以上より、Nsd1-cKOによりエピゲノム状態が変化し、ひいてはトランスクリプトームが変化することが明らかとなった。特に、遺伝子発現低下は、プロモーター領域やエンハンサー領域のH3K27Acの減少に依存し、遺伝子発現上昇はプロモーター領域のDNAメチル化の減少に依存することが示唆された。また、遺伝子発現低下トップ5遺伝子の中には、神経細胞の生存、増殖、分化、シナプス形成、樹状突起促進に関わるとされる遺伝子が含まれており、ソトス症候群の表現型と関連する可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
成熟神経細胞核を用いて、Cut&Tag法にてゲノム網羅的なヒストン修飾(H3K27Ac、H3K27me3、H3K36me2、H3K36me3)を解析した。加えて、昨年度までに行った全ゲノムDNAメチル化解析(EM-seq)とトランスクリプトーム解析(RNA-seq)のデータも一部統合して解析しすることで、エピゲノム状態の変化を把握することができた。また、予備的な解析ではあるが、遺伝子発現の減少と上昇では、影響するエピゲノム変化が異なることが示唆された。さらに、ソトス症候群の表現型と関連する可能性のある遺伝子が、エピゲノム変化により発現変化を生じていることも同定できた。
これまでに得られたエピゲノム解析情報(DNAメチル化、ヒストン修飾(H3K27Ac、H3K27me3、H3K36me2、H3K36me3)、トランスクリプトーム)を統合して詳細に解析することにより、NSD1の標的ゲノム領域 or 標的遺伝子を絞り込む。また、透明化技術を用いた脳深部バイオイメージング解析を共同研究で進めており、Nsd1-cKOによる細胞レベルの形態学的変化を解析する。以上より、ソトス症候群における精神発達遅滞の分子病態を明らかにする。
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