小児・AYA世代がん患者等に対する妊孕性温存療法の技術革新を目指した、がん・生殖医療の診療の場に展開できる技術開発を目的として研究を進めてきた。以下に、令和4年度の研究実績を記す。 1.白血病患者における卵巣内のMRD(微小残存腫瘍)と卵巣移植の実現可能性を検証する研究: GFP安定発現白血病細胞株を用いて作製されたMRDモデルマウスの卵巣内に浸潤した白血病細胞数を測定する実験系を構築した。その結果、経腹的あるいは経尾的な両方の移植法において卵巣内に浸潤する細胞数には、移植細胞のクローンによる違いや個体差、さらには卵巣の左右差などが生じることがわかった。今後はクローンの選別や移植後時間の調節により卵巣内に安定的に浸潤するMRDモデルの作製を検討する。 2. 卵巣組織凍結保存拠点化に向けた研究:卵巣組織検体を管理するシステムとしてRFID(Radio Frequency Identification)を用いたソフトウェア開発を企業と共同で行い、令和5年度中には完成予定である。 3.卵巣移植の至適な技術開発に向けた研究:カニクイザルを用いた大網、卵巣(同所)並びに子宮漿膜への移植実験を行った。現在、血中エストラジトール値を測定し、卵巣機能回復状況を確認している。 4.新しい精巣組織凍結法の開発:マウス精巣(凍結未)の背部皮下移植実験系の確立に成功した。生着率の安定化を目指し、成長因子等を添加する移植法を検討している。 5. 抗腫瘍薬の性腺毒性の評価:慢性骨髄性白血病の治療薬であるチロシンキナーゼ阻害剤、ダサチニブによるマウスの性腺毒性(卵巣)の評価を行った。ダサチニブの投薬により卵巣培養ではエストラジオールが低下し、血管新生が低下する事実が明らかとなった。経口投与によるin vivo実験の結果、受精率が有意に低下する事実が明らかとなった。
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