本研究では、従来、自由度の低い腕到達運動を対象にして行われてきた適応実験パラダイムによって、多自由度の全身運動でさえも無意識のうちに変容させることができるのかを検討し、ロバストな歩様学習支援システムを開発することを目的としている。これまで、トレッドミルと大型スクリーンを用いた実験室環境において学習した歩行動作が、視覚誘導性歩行だけでなく自然歩行にも一部転移することを示してきた。しかし、これはトレッドミル上での学習・評価であり、日常の地面で行われる歩行動作への転移をより大きくするには、地面歩行を対象にした適応実験系の構築が必要と考えられる。 本年度は、計測範囲制限の少ない慣性式モーションキャプチャで計測した歩行動作をリアルタイムにVRヘッドマウントディスプレイに映し出すシステムを構築し、広いフィールドで地面歩行を行いながら適応実験を実施できる実験系を構築した。慣性式モーションキャプチャでは、場所や身体拘束が少ないというメリットがあるが、重心の絶対位置の計測にドリフトが生じやすいというデメリットがある。これを補うために、足部の少数のマーカーに関しては光学式モーションキャプチャを用い、慣性式モーションキャプチャで計測した全身動作と統合することによって、最小限の制約で、地面歩行の適応実験が行えるシステムを構築した。また、地面歩行では、歩き続けるためには、途中で折り返すか、円を周回するなどの工夫が必要であるが、このような視線変化を伴う場合のVR提示では酔いが発生する可能性があるため、視線変化の少ない円の周回課題を採用してシステム構築を行った。
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