研究課題
昨年度に引き続き、複数の船舶を用いた海洋上の水蒸気観測と、ひまわり8号観測から可降水量を推定する手法の開発を進めた。船舶観測では、三重大学の「勢水丸」と東海大学の「望星丸」には通年、海洋研究開発機構の「みらい」には2021年8月から2022年1月まで、「新青丸」には2021年5月から6月に、水産大学校の「耕洋丸」には2022年1月にマイクロ波放射計・雲カメラ・GNSS受信機を設置し、日本沿岸、熱帯北太平洋、中緯度北太平洋、北極海での海洋上の水蒸気・雲の連続観測を実施した。「みらい」、「新青丸」、「耕洋丸」では、GPSゾンデによる水蒸気鉛直プロファイル観測やCTD・XCTDによる海洋鉛直プロファイルも同時に実施した。これにより、マイクロ波放射計で推定する水蒸気量の精度検証と誤差軽減及び、ひまわり8号による可降水量推定の学習に必要な海洋上での水蒸気データ及び、海洋上の水蒸気分布を左右する海水温データを高密度で取得することに成功した。また、晴天時のラジオゾンデ観測データベースSeaBorと放射モデルMODTRAN6を用いて、ひまわり8号の熱赤外・水蒸気バンドをシミュレートし、このデータを教師データとした機械学習可降水量推定モデルのプロトタイプを作成した。さらに、2020年8月から京都大学防災研究所潮岬風力実験所にて連続観測しているマイクロ波放射計・雲カメラ観測から、降水直前1時間の水蒸気量の変化を解析し、降水タイプによって異なる時間変化を見出した。
2: おおむね順調に進展している
昨年度はコロナ禍のため、船舶への測器設置が遅れたが、今年度は順調に観測が行われ、「勢水丸」と「望星丸」の2隻では通年観測が実施できた。また、「みらい」では当初予定していた熱帯観測だけでなく、北太平洋横断及び北極海での観測も実施でき、幅広い大気状態の水蒸気量を観測することができた。さらには、「勢水丸」のドック作業中に「耕洋丸」にマイクロ波放射計・雲カメラ・GNSSを移設することで、日本海のJPCZやオホーツク海の海氷付近での観測も実施でき、日本沿岸冬季海上の貴重な水蒸気観測データを得ることができた。ひまわり8号からの可降水量推定モデル開発では、複数の機械学習手法を比較することで、より精度の高い推定手法のプロトタイプが作成できた。
コロナ禍や世界情勢の悪化により、船舶からのGPSゾンデ観測に必要なヘリウムの入手が困難になり、GPSゾンデを用いた海上水蒸気観測とそれを用いた精度検証は難しくなりつつある。これまでのマイクロ波放射計・雲カメラ・GNSSとGPSゾンデ観測の同時観測データを活用することで、マイクロ波放射計及びひまわり8号による水蒸気量推定精度の向上を図る。2022年6月から7月には、東シナ海及び北海道沖で「勢水丸」、「新青丸」による集中観測を実施し、梅雨前線に流入する水蒸気を捉えることを試みる。この際には、ドローンや海上乱流フラックス計を用いた海上大気境界層観測も同時に実施し、海上水蒸気分布と海洋との関係の解析を進める。また、潮岬風力実験所でのマイクロ波放射計・雲カメラの2年間に渡る連続観測データを用いて、降水直前の水蒸気変化メカニズムを解析する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
Progress in Oceanography
巻: 200 ページ: 102713
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