研究課題
カンプトテシンはDNA-タンパク質の共有結合中間体を発生させ、DNA切断の3’にアミノ酸が結合した汚い末端のDNA切断である。ポリメラーゼεの校正エキソヌクレアーゼ活性を点変異で潰した変異細胞は、カンプトテシンに特異的に超感受性を示し、カンプトテシンに応答した複製停止が不良となっていることが判明した。本研究の目的は、ポリメラーゼεの校正エキソヌクレアーゼ活性が汚い末端の損傷部分で複製を停止させる機構を解明することである。この目的を達成するために2021年度には生化学的検証を実施した。この研究では、ポリメラーゼεの校正エキソヌクレアーゼ活性はDNAを3’末端から削り込む活性であることに着目し、複製フォークが巻き戻った構造を形成する際の最初の過程で、(1)複製ポリメラーゼが停止した部位のDNA二重鎖切断の末端の削り込みを行い、(2)現れた5’オーバーハングにRecA族組換え酵素が結合し、相同鎖の検索をおこなう。(3)ラギング鎖の鋳型鎖側と相同配列をもつこととなるので、この相同組換え反応によってフォークを反転させ、新生鎖どうしが向き合った構造を形成し、安全に複製を停止させる、といった3段階の過程を想定し以下の実験を行った。実験1:DNA末端部分でのDNA削り込み反応を検討する。校正エキソヌクレアーゼ活性は従来ミスマッチした塩基対で活性化すると考えられているが、鋳型鎖が断裂し継続しない部位での活性化について検討する。実験2:複製ポリメラーゼε(野生型と変異型)を用いて、試験管内での組換え反応の活性化を検討する。100 nt程度のオリゴDNAを用いて、複製停止した末端と同様の平滑末端を有する2本鎖DNAを用意する。この末端の5’を32P放射線標識して、ドナーDNAへの鎖侵入反応を調べる。2021年度中にこれらすべての試験管内反応を検証し、以上の反応過程の証明に成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、ポリメラーゼεの校正エキソヌクレアーゼ活性がフォークを巻き戻り複製フォークのプロテクションを行うという、これまでに想定されたことのないポリメラーゼεの新機能を解明し、その成果を新規のガン治療に結び付けようとする研究である。この目的のため、以下の作業仮説の生化学的・遺伝学的検証を行う。ポリメラーゼεの校正エキソヌクレアーゼ活性はDNAを3’末端から削り込む活性であることに着目し、複製フォークが巻き戻った構造を形成する際の最初の過程で、(1)複製ポリメラーゼが停止した部位のDNA二重鎖切断の末端の削り込みを行い、(2)現れた5’オーバーハングにRecA族組換え酵素が結合し、相同鎖の検索をおこなう。(3)ラギング鎖の鋳型鎖側と相同配列をもつこととなるので、この相同組換え反応によってフォークを反転させ、新生鎖どうしが向き合った構造を形成し、安全に複製を停止させる。2020年度に、ポリメラーゼεの校正エキソヌクレアーゼ活性を変異で潰した細胞での複製停止不良を検討し、カンプトテシンによる複製停止がポリメラーゼεの校正エキソヌクレアーゼ活性を変異で潰した細胞で不良化していること、このポリメラーゼεの機能はPARP1と同一経路で機能することをヒト及びニワトリ細胞で明らかとした。また、汚い末端の除去を行うTDP1とは独立して機能することも解明した。さらに、これらのポリメラーゼεの校正エキソヌクレアーゼ活性に依存した経路がDNA二重鎖切断の防止に寄与することを明らかにした。2021年度には生化学的検証を実施し、前述の3段階の過程で確かにポリメラーゼεの校正エキソヌクレアーゼ活性がフォークの逆転を誘導し、フォークプロテクションに寄与していることを明らかにした。国際共同研究のコロナ禍に伴う遅延と、国内での遺伝学・生化学研究の大幅な進展をあわせ、「概ね順調」と評価している。
前述の本研究の知見をがん治療につなげるためには、複製ポリメラーゼイプシロンの校正エキソヌクレアーゼ活性と相補的経路を発見することが重要である。これまでの研究で、複製ポリメラーゼイプシロンの校正エキソヌクレアーゼ活性を潰した変異細胞では、DNA二重鎖切断が増加するとともに、相同組換えが上昇していることが明らかとなっており、フォーク停止の不良によって発生したDNA二重鎖切断が相同組み換えによって効果的に修復されていることが示唆されている。そこで、複製ポリメラーゼイプシロンの校正エキソヌクレアーゼ活性の変異と、BRCA1など家族性乳がんに頻繁に見つかる相同組み換え関連変異を組み合わせて、シナジー効果が見られるのか検討する。この知見は、家族性乳がんに頻繁に見つかるBRCA1などの遺伝子の変異に由来するがん細胞の治療に有効な情報となる。具体的には、PARP1や複製ポリメラーゼイプシロンの校正エキソヌクレアーゼ活性を阻害する低分子化合物をカンプトテシンと同時に、このような細胞に暴露することで新規の分子標的治療が可能となるのである。また、昨今のCOVID-19感染拡大問題が収束したらイタリアIFOM研究所に教員1名と学生1名を3ヶ月派遣し、複製ポリメラーゼイプシロンの校正エキソヌクレアーゼ活性の変異体での複製停止異常の電子顕微鏡を用いた計測を行う。上記2つの実験結果を取りまとめ、分子生物学会及び染色体ワークショップにて研究発表を行う。また、Nucleic Acids Researchに投稿する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 5件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (7件)
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