研究課題/領域番号 |
20H04340
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
新開 泰弘 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (10454240)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | サルフェン硫黄 / 環境中親電子物質 / 毒性防御 |
研究実績の概要 |
昨年度までの研究成果により、マウス脳のサイトソル画分におけるサルフェン硫黄結合タンパク質(SSBP)の1つとして、我々はGrowth Inhibitory Factor (GIF)/Metallothionein-3 (MT3)を同定した。そこで本年度はGIF/MT3タンパク質に特に焦点を当て、サルフェン硫黄の結合量とその結合部位、環境中親電子物質に対する防御的役割について詳しく解析した。大腸菌の高発現系により調製したヒトリコンビナントGIF/MT3を親電子プローブであるβ-(4-hydroxyphenyl)-ethyl iodoacetamide(HPE-IAM)を最適条件下で反応させて、タンパク質に結合したサルフェン硫黄をBis-S-HPE-AM誘導体とし、安定同位体希釈法を用いたLC-MS法により定量してタンパク質1分子当たりのサルフェン硫黄の結合量を調べた。その結果、システイン残基を20個有するGIF/MT3には約20個程度のサルフェン硫黄が結合していることが分かった。そこで20個のシステイン残基をすべてアラニンに置換したGIF/MT3変異体を作成したところ、サルフェン硫黄は殆ど検出されなかったことから、確かにシステイン残基に結合しているサルフェン硫黄であることが示唆された。結合部位について詳しく検討するため、GIF/MT3の各種変異体(alphaドメインタンパク質、betaドメインタンパク質、システインの部分変異体など)を作製して解析したが、サルフェン硫黄は特定の変異体では消失しなかったことから、システイン残基に比較的均一に結合していることが考えられた。次に、環境中親電子物質のモデル物質としてメチル水銀を用いてGIF/MT3と反応させると、GIF/MT3中のサルフェン硫黄は減少し、毒性の低いイオウ付加体であるビスメチル水銀サルファイドの生成が確認された。これらの結果より、GIF/MT3が環境中親電子物質の解毒に働くSSBPの1つであることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カドミウムやメチル水銀などの親電子物質は環境中にユビキタスに存在し、ヒトの健康を障害するリスク因子であることが理解されており、それらに対する生体防御機構の理解は重要な課題である。我々のグループは、サルフェン硫黄を有するパースルフィド/ポリスルフィドなどの超硫黄分子が環境中親電子物質を捕獲し、不活性なイオウ付加体に変換することを明らかにしてきた。本課題は、申請者が最近確立した手法を用いて、生体内においてサルフェン硫黄が結合しているタンパク質を単離・同定し、当該タンパク質の環境中親電子物質に対する防御的役割を明らかにすることを目的としている。昨年度の成果にて、マウス脳よりSSBPの1つとしてGIF/MT3を同定できたことから、本年度はリコンビナントGIF/MT3を用いて、サルフェン硫黄の結合量とその結合部位、環境中親電子物質に対する防御的役割について解析することを主たる目的としている。その結果、GIF/MT3には1分子当たり20個程度のサルフェン硫黄がシステイン残基を介して比較的均一に結合していることが分かった。また、GIF/MT3はメチル水銀をそのイオウ付加体であるビスメチル水銀サルファイドに変換できる機能性があることも明らかにした。従って本年度の当初の目的は達成されており、順調な進展と言える。
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今後の研究の推進方策 |
メチル水銀だけでなく、カドミウムや1,2-ナフトキノンのような他の環境中親電子物質に対するSSBPの防御的役割についても調べる。また、GIF/MT3は抗酸化性を有することは既に報告されているが、酸化ストレスに対してGIF/MT3結合性のサルフェン硫黄が果たす役割についても明らかにする。培養細胞系を用いて、親電子ストレスや酸化ストレスに対するGIF/MT3の防御的役割を遺伝子発現操作によって解析する。以上の成果をとりまとめ、学会発表や学術雑誌への論文投稿を行う。
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