研究課題/領域番号 |
20H05658
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 泰浩 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (40221882)
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研究分担者 |
岩森 光 東京大学, 地震研究所, 教授 (80221795)
安川 和孝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (00757742)
藤永 公一郎 千葉工業大学, 次世代海洋資源研究センター, 上席研究員 (90409673)
町田 嗣樹 千葉工業大学, 次世代海洋資源研究センター, 上席研究員 (40444062)
大田 隼一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (70793579)
野崎 達生 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(海底資源センター), グループリーダー代理 (10553068)
高谷 雄太郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (10636872)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 海底鉱物資源 / 資源探査 / グローバル物質循環 |
研究実績の概要 |
2021年度において研究代表者らは,太平洋全域で採取された遠洋性粘土試料の高精度化学分析および堆積年代決定を行い,太平洋広域における遠洋性粘土の「化学層序プローブ」を用いた情報抽出に成功した.また,膨大な堆積物化学組成データセットを統計的に解析し,プレート運動および堆積年代を考慮することでそれらの時空間分布を可視化することができた.これは,海洋・陸上の様々な地質試料に関する地球化学データ解析の新しいプロトコルを世界に向けて提示した,極めてインパクトの大きな成果である.さらに,こうした地球の物質循環の変化と遠洋性粘土への元素濃集過程の関連を検討するために,海洋と堆積物の間におけるレアアースのマスバランスについてモンテカルロシミュレーションを適用し,定量的に検討した.その結果,堆積速度が一定値より小さくかつ魚類生産性が高い堆積環境下でのみ超高濃度レアアース泥は生成しうることを示した.これに加えて,遠洋性粘土の最表層に広く分布するマンガンノジュール試料を対象に,X線CT分析による非破壊3次元構造解析と微小領域蛍光X線分析による2次元断面元素マッピングを行い,マンガンノジュールの成長履歴を詳細に解読した結果,南極の周囲を流れる下部周極深層水に端を発する海洋深層の海流が北上し,南鳥島海域に長期的に流入したことがマンガンノジュールの形成・成長を促したことを初めて明らかにした.この深層水流の消長は,遠洋性粘土の削剥プロセスを解明する重要な鍵となる点で極めて重要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度において,研究代表者らは太平洋全域で採取された遠洋性粘土試料の全岩化学分析,同位体比分析,顕微鏡観察,鉱物組成分析,堆積年代決定を行い,遠洋性粘土の「化学層序プローブ」を構築した.また,それに基づき,遠洋性粘土中に含まれるマイクロマンガンノジュールの化学組成を解析し,超高濃度レアアース泥の生成に海洋鉛直循環の強化と生物生産性の増大が重要な役割を果たしたとする研究代表者らの仮説を裏付ける新たな証拠を得ることができた.また,研究代表者らは,遠洋性粘土と密接に関連するマンガンノジュールの非破壊3次元構造解析と2次元断面元素マッピングの結果を詳細に検討し,過去の海洋深層水流の変遷とノジュールの成因的関連を明らかにした.この深層水流の消長は,遠洋性粘土の削剥プロセスを解明する重要な鍵となる点で極めて重要である.さらに,派生的な研究として,南鳥島周辺の海底面付近から採取されたレアアース泥試料を用いて,模擬海水中における泥粒子の沈降実験も実施した.その結果,南鳥島EEZ内におけるレアアース泥の開発時に舞い上がる泥の影響の及ぶ範囲は南北30 km×東西20 km程度に限られることが明らかとなり,環境負荷の少ない開発が実現可能であることが示唆された.これらの成果は,すでにGeochemistry, Geophysics, GeosystemsやMineralsなどの国際誌に公表したほか,国際・国内学会でも発表している. 以上のことから,本研究は,「グローバル物質循環という真に俯瞰的なスコープで,気候変動から火山・マントル活動を含む地球上の諸現象を統一的に説明する理論の創成」という当初の目標に向けて予定を上回るペースで進捗しているといえる.さらにその過程で,当初は想定していなかった重要な学術的知見も複数得られていること,それらの知見が幅広い理学・工学分野にも波及して新展開をもたらしつつあることから,期待以上の成果が見込まれると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
今後も,当初の研究計画に従って研究を進展させていく.これまでと同様に,試料採取,基礎記載,全岩化学分析,高精度Sr-Nd-Pb同位体分析,Os同位体およびイクチオリス層序による年代決定の各項目について研究を遂行する.さらに,既に取得したデータと合わせて有用元素を含む主成分元素および微量元素を網羅した膨大な組成データセットを構築するとともに,独立成分分析などによる統計解析を引き続き実施し,遠洋性粘土の化学組成の時間変化や堆積層の削剥の記録を網羅的に把握する.これにより,海洋の深層循環のパターンと消長を読み解き、その変動を支配する要因について,過去の地球の大陸配置やバックグラウンド環境の変遷 (大陸氷床の消長等) に着目して考察する.堆積物のSr-Nd-Pb同位体比からは,遠洋性粘土を構成する砕屑性成分の供給源 (ユーラシア大陸、アメリカ大陸、オーストラリア大陸等) を識別し,プレート移動や気候変動と物質循環の関連を読み解く.また,風成塵の成分から陸上環境および大気循環についての情報も取得することで,地球表層環境における物理化学的な変動の全貌を描き出す.
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