研究課題
2022年度において研究代表者らは,前年度に引き続き遠洋性粘土試料の高精度化学分析および堆積年代決定を行い、太平洋広域における遠洋性粘土の「化学層序プローブ」の構築と,膨大な堆積物化学組成データセットを統計的に解析することによる時空間分布の可視化を実施した.北西太平洋の遠洋性粘土の化学組成について機械学習を用いた堆積層分類を行い,41元素の情報を包含した高次元化学層序を見いだした.さらに,これまで蓄積した海底堆積物のデータセットを解析した結果,南北太平洋でレアアース泥の多元素組成の特徴の違いが認められた.これらはいずれも,周囲の大陸や卓越風帯などの位置関係,長期的なプレート運動に伴う堆積場そのものの変化などの影響の重ね合わせを反映していると考えられる.さらに,Os年代に基づく検討の結果,高濃度レアアース泥層を挟んで大きく堆積年代が異なる堆積物が接していることが初めて明確となり,南鳥島周辺の堆積層に生じた削剥現象が高濃度レアアース泥層の成因に関わっている可能性が示唆された.また,中央北太平洋遠洋域の海底堆積物試料のOs同位体組成およびBa同位体組成を検討した結果,暁新世後期から始新世前期におけるhyperthermals 時には,大陸風化フラックスおよび生物生産性が増大し,CO2を消費して温暖化から回復する負のフィードバックが機能していたことが明らかとなった.さらに,海洋中のレアアース元素の質量収支に着目した数理モデルを構築し,レアアース泥の生成条件について予察的な数値シミュレーションを行った.これに加えて,南鳥島マンガンノジュールのマイクロXRF元素マッピングとOs年代決定の結果,ノジュールの成長停止・再開は,気温の変化に伴う底層流の強化・弱化に伴うものであることが示唆された.
1: 当初の計画以上に進展している
2022年度において,研究代表者らは遠洋性粘土の「化学層序プローブ」の構築と,堆積物化学組成データセットの統計解析による時空間分布の可視化を実施した.特に,北西太平洋と対比する形で,南太平洋で採取された遠洋性粘土コアの化学組成を詳細に解析し,最高で4,600 ppmにも達する高濃度レアアース泥層を発見することができた.また,対象としたコアの1つは最上部の6.5m区間で南鳥島海域に匹敵する大きな資源ポテンシャルを示しており,南太平洋で最も有望な海域であることも明らかとなった.また,研究代表者らは,データ駆動型アプローチを用いて生物源アパタイトへのレアアース濃縮を支配する主要なプロセスの検討を行い,(1) アパタイト結晶格子中の元素置換,(2) アパタイト結晶表面での元素吸着,(3) 火山起源物質からの元素移動などの統計的に独立なプロセスの痕跡を抽出することに成功した.その結果,超高濃度レアアース泥の生成時には、生物生産の増加により有機物等が海底へレアアースを効率的に輸送したことで、魚の骨や歯が周囲の海水や間隙水からレアアースを吸着する作用が促進されたことが示された.これらの成果は,すでにGeochemistry, Geophysics, GeosystemsやChemical Geologyなどの著名な国際誌に公表したほか,国際・国内学会でも発表している.以上のことから,本研究は,「グローバル物質循環という真に俯瞰的なスコープで,気候変動から火山・マントル活動を含む地球上の諸現象を統一的に説明する理論の創成」という当初の目標に向けて予定を上回るペースで進捗しているといえる.さらにその過程で,当初は想定していなかった重要な学術的知見も複数得られていること,それらの知見が幅広い理学・工学分野にも波及して新展開をもたらしつつあることから,期待以上の成果が見込まれると判断できる.
2023年度は,これまでと同様に,試料採取,基礎記載,全岩化学分析,高精度Sr-Nd-Pb同位体分析,Os同位体およびイクチオリス層序による年代決定の各項目について研究を遂行する.さらに,既に取得したデータと合わせて有用元素を含む主成分元素および微量元素を網羅した膨大な組成データセットを構築するとともに,独立成分分析などによる統計解析を引き続き実施し,遠洋性粘土の化学組成の時間変化や堆積層の削剥の記録を網羅的に把握する.これにより,海洋の深層循環のパターンと消長を読み解き、その変動を支配する要因について,過去の地球の大陸配置やバックグラウンド環境の変遷 (大陸氷床の消長等) に着目して考察する.堆積物のSr-Nd-Pb同位体比からは,遠洋性粘土を構成する砕屑性成分の供給源 (ユーラシア大陸、アメリカ大陸、オーストラリア大陸等) を識別し,プレート移動や気候変動と物質循環の関連を読み解く.また,風成塵の成分から陸上環境および大気循環についての情報も取得することで,地球表層環境における物理化学的な変動の全貌を描き出す.
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すべて 雑誌論文 (25件) (うち査読あり 25件、 オープンアクセス 22件) 学会発表 (58件) (うち国際学会 8件、 招待講演 8件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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