• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2020 年度 実績報告書

単一分子トランジスタのテラヘルツダイナミクスと量子情報処理技術への展開

研究課題

研究課題/領域番号 20H05660
研究機関東京大学

研究代表者

平川 一彦  東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10183097)

研究分担者 平山 祥郎  東北大学, 理学研究科, 教授 (20393754)
村田 靖次郎  京都大学, 化学研究所, 教授 (40314273)
濱田 幾太郎  大阪大学, 工学研究科, 准教授 (80419465)
芦原 聡  東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10302621)
研究期間 (年度) 2020-08-31 – 2025-03-31
キーワード単一分子トランジスタ / 核スピン / 量子ドット / テラヘルツ電磁波 / 共振器 / ナノギャップ電極
研究実績の概要

近年、量子ドット、単一分子など極微ナノ構造を活性層に用いた新規トランジスタの研究が注目されている。特に、単一分子は分子機能を応用できるデバイスとして注目されるとともに、分子振動や核スピンなどが新しい量子情報処理の媒体となる可能性も検討されている。このようなナノ構造中の量子準位や分子振動などの素励起のエネルギーは、おおよそテラヘルツ(THz)電磁波の光子エネルギーに対応するため、THz電磁波との相互作用の研究は、ナノ量子構造の物理の解明やその応用に適していると考えられる。特に、ナノギャップ中のTHz電界は大きく増強されるため、極めて強いTHz交流電界と電子系の相互作用という非常に興味深い状況も作り出せることもわかってきた。ちょうど今、THz電磁波と極微ナノ構造の相互作用の研究は新しいフェーズに入ったと言えよう。上記のような背景の下、現在立ち上がりつつある原子スケールの「テラヘルツナノサイエンス」という新しい分野をさらに推進・深化させ、応用への展開可能性を探ることを本研究の目的とする。
本年度は、特に、単一の水分子を内包したフラーレン分子(H2O@C60)を活性層とする単一分子トランジスタを作製することに成功し、C60カゴ分子に内包された水分子の励起スペクトルを、コンダクタンスやTHz励起光電流スペクトル測定より求めることに成功した。さらに、単一水分子のH原子の核スピンの向きの違いによるオルソ水分子、パラ水分子の回転励起を同一スペクトルの中に観測した。単一水分子を測定しているにもかかわらず、オルソ状態とパラ状態の水分子の回転励起を観測したと言うことは、オルソ-パラ状態が時間的に揺らいでいることを意味しており、極めて興味深い情報が得られた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度は、ナノギャップ電極を用いて単一H2O@C60分子トランジスタを作製し、H2O@C60分子を経由して流れるトンネル電流やTHz電磁波を照射した時の電流変化を測定した。その結果、コンダクタンススペクトルやTHz励起光電流スペクトルに、C60カゴ分子中でH2O分子が振動するモードに加えて、10 meV以下の低エネルギー領域に3つのピークが観測された。それらの低エネルギーピークは、そのエネルギーからパラ水分子とオルソ水分子の回転励起に起因する信号と同定された。単一水分子の信号を測定しているにもかかわらず、オルソ状態とパラ状態の信号が同時に見えたことは、1回の測定時間(数分)よりも短い時間スケールで、水分子を構成する水素原子の核スピンがフリップし、水分子がオルソとパラ状態の間を揺らいでいることを意味している。H2O@C60分子集合でのオルソ-パラ緩和の時定数は10時間程度と報告されていることから、この高速なオルソ-パラ変換は、電極から注入される伝導電子のスピンとの相互作用によるものを思われる。また水分子の量子回転モードを用いて単一核スピンの情報を読み出せたことは大きな成果である。一方、分子トランジスタの抵抗により1原子のNMRを測定する試みは、現在までの段階では信号が見えていない。
また、分子トランジスタ作製に不可欠な通電断線過程に関して、強磁性体Niなどの高融点金属では電子伝導が拡散的でジュール熱が発生するような領域でも、ジュール熱が支配する通電断線は起こらず、金属種ごとに決まっている表面拡散ポテンシャルで決まる電圧に達しないと通電断線が進行しないことがわかった。この知見は、磁性や超伝導性など様々な性質を持っている金属のナノギャップ電極作製に非常に有益な知見である。
一方、2020年度に導入を予定していた無冷媒He3冷凍機は、COVID-19のために納品が1年程度遅れた。

今後の研究の推進方策

今後も引き続き単一分子トランジスタの量子伝導と分子振動や核スピンの検出と応用に関する研究を継続する。特に、本年度観測に成功したH2O@C60分子におけるパラ/オルソ水分子の量子回転励起についてさらに検討を進める。極低温、無磁場状態では、パラ水分子が基底状態であることが知られているが、強磁場を印加すると核スピンがそろったオルソ状態に基底準位が入れ替わることが予想される。今後は、強磁場を印加しつつ、磁気抵抗やTHz励起光電流測定により、水素原子1個の核スピンの検出に取り組む。
また、本基盤研究Sの開始と同時に、COVIDの蔓延があり、連携研究者をお願いしていたエコールノルマルのRosticher博士とのカーボンナノチューブ(CNT)に関する共同研究が開始できない状況に陥った。そのために、我々の研究室で作製できる半導体ヘテロ構造に微細加工を施して実現できる量子ドットとTHz共振器の実験に計画をシフトして研究を行なう。高移動度半導体ヘテロ構造に超微細加工を行って実現できる量子ドットとスプリットリング共振器(split-ring resonator; SRR)と呼ばれる微小なTHz共振器との超強結合が実現できると、量子ドット内の量子情報を電磁波という形で遠方に伝送することができ、空間的に離れた量子ドット間の相関を実現できる。従来の研究では、電子系と共振器系の結合を強めるために、電子の集団運動(プラズモン)を用いることが報告されている。しかし、多くの電子が量子ドット中に存在する状況では、その量子状態の制御は容易ではない。従って、極少数の電子系でTHz共振器との強結合を実現することが鍵となる。今後、半導体量子ドットの量子情報のTHz伝送の研究にも力を入れていく。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 2件)

  • [雑誌論文] Ultrafast rattling motion of a single atom in a fullerene cage sensed by terahertz spectroscopy2020

    • 著者名/発表者名
      Du Shaoqing、Zhang Ya、Yoshida Kenji、Hirakawa Kazuhiko
    • 雑誌名

      Applied Physics Express

      巻: 13 ページ: 105002-1~5

    • DOI

      10.35848/1882-0786/abb68e

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] エレクトロマイグレーションを用いたナノギャップ電極の作製と単一分子ナノエレクトロニクスへの展開2020

    • 著者名/発表者名
      平川一彦、杜少卿
    • 雑誌名

      日本信頼性学会誌

      巻: 42 ページ: 222~229

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Cation recognition on a fullerene-based macrocycle2020

    • 著者名/発表者名
      Hashikawa Yoshifumi、Murata Yasujiro
    • 雑誌名

      Chemical Science

      巻: 11 ページ: 12428~12435

    • DOI

      10.1039/D0SC05280A

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Precise Fixation of an NO Molecule inside Carbon Nanopores: A Long‐Range Electron?Nuclear Interaction2020

    • 著者名/発表者名
      Hashikawa Yoshifumi、Hasegawa Shota、Murata Yasujiro
    • 雑誌名

      Angewandte Chemie International Edition

      巻: 60 ページ: 2866~2870

    • DOI

      10.1002/anie.202012538

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Double-Holed Fullerenes2020

    • 著者名/発表者名
      Hashikawa Yoshifumi、Fushino Teppei、Murata Yasujiro
    • 雑誌名

      Journal of the American Chemical Society

      巻: 142 ページ: 20572~20576

    • DOI

      10.1021/jacs.0c10676

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Ultrafast saturable absorption of large-diameter single-walled carbon nanotubes for passive mode locking in the mid-infrared2020

    • 著者名/発表者名
      Okazaki Daiki、Morichika Ikki、Arai Hayato、Kauppinen Esko、Zhang Qiang、Anisimov Anton、Varjos Ilkka、Chiashi Shohei、Maruyama Shigeo、Ashihara Satoshi
    • 雑誌名

      Optics Express

      巻: 28 ページ: 19997-1~10

    • DOI

      10.1364/OE.395962

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] 金ナノ構造からの電子放出を用いた光電場計測素子の開発 II2021

    • 著者名/発表者名
      新井滉、岡崎大樹、森近一貴、芦原 聡
    • 学会等名
      第68回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] 電荷検出器への応用に向けた金属ナノ接合の微細化と伝導特性制御2021

    • 著者名/発表者名
      柴田憲治、佐々木尚人、斉藤大我、大塚朋廣、平川一彦
    • 学会等名
      第68回応用物理学会春季学術講演会
  • [学会発表] GaAs 2次元電子系に形成した量子ポイントコンタクトにおけるサブバンド間共鳴励起現象の観測2021

    • 著者名/発表者名
      黒山和幸、權晋寛、荒川泰彦、平川一彦
    • 学会等名
      応用物理学会2021年度春季学術講演
  • [学会発表] 第21回業績賞(研究業績)受賞記念講演」量子ナノ構造とテラヘルツダイナミクス2021

    • 著者名/発表者名
      平川一彦
    • 学会等名
      第68回応用物理学会春季学術講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] 赤外超高速プラズモニクス-振動分光の新たなプラットフォーム-2021

    • 著者名/発表者名
      芦原聡
    • 学会等名
      第27回ナノオプティクス研究討論会
    • 招待講演
  • [学会発表] テラヘルツ共振器によるGaAs2次元電子系量子ホール磁気伝導への反作用の観測2020

    • 著者名/発表者名
      黒山和幸、權晋寛、荒川泰彦、平川一彦
    • 学会等名
      日本物理学会2020年秋季大会
  • [学会発表] 光電界電子放出を用いたキャリア・エンベロープ位相計測素子の開発2020

    • 著者名/発表者名
      新井滉、岡崎大樹、森近一貴、芦原聡
    • 学会等名
      日本光学会年次学術講演会OPJ2020
  • [学会発表] 金ナノ構造からの電子放出を用いた光電場計測素子の開発2020

    • 著者名/発表者名
      新井滉、岡崎大樹、森近一貴、芦原 聡
    • 学会等名
      第81回応用物理学会秋季学術講演会

URL: 

公開日: 2022-12-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi