研究課題
令和4年度は、以下の実績を挙げた。昨年までの解析で、コヒーシンローダーはN末のみの振る舞いを見た場合、その転写の現場へのリクルートはアクティベーターとメディエーターに100%依存していることが判明した。今年度は転写装置としてのコヒーシンローダーの役割が何であるのか、特に転写伸長反応の装置に焦点を当ててin vivoとvitroで解析した。1.In vitro再構成系では、コヒーシンローダーの欠損がリモデリング因子SPT6および、転写伸長因子CDK12の脱落を引き起こすこと、逆にSPT6の欠損がコヒーシンローダーの結合を抑制することを見出した。さらに、コヒーシンはCDK9複合体とNTP存在下では相互作用するが、フラボピリドール存在下では相互作用しないことが判明した。2.In vivoの解析系では主としてコヒーシンをオーキシンデグロンにより枯渇化し、その影響をゲノムワイドに検証している。特に転写伸長因子に限って解析した結果、PI(Pausing Indexの減少が顕著に認められることが明らかとなった。また、一部の因子についてプロモーターにおける結合量は変わらないものの、Gene Bodyにおいて結合の減少が見られる伸長因子がコヒーシン枯渇化条件下で明らかとなった。3.これらの実験と並行して、転写産物の構造の解析(total RNA-seq)をコヒーシン、コヒーシンローダーの枯渇化(デグロンによる)でおこなった。その結果、コヒーシンローダーの枯渇下においては遺伝子の5'および3'側両端にマップされるリード数が上昇すること、また、発現のゆらぎ(標準偏差)が上昇する傾向にあることが判明した。カロリンスカ研究所のCarsten Dauv教授とエンハンサー機能についての数理モデルの検討、同研究所のCamilla Bjorkegren博士とコヒーシンの転写 に与える影響の解析を網羅的かつ系統的に行うべく、研究員2 名を長期に派遣し、共同研究を推進している。
2: おおむね順調に進展している
コヒーシンの転写に与える影響は多くの研究室がしのぎを削るテーマであるものの様々な議論があり、未だに回答がない。申請者らはそういう状況の中で世界の中でもvitroとvivoの両面からこの問題に取り組んでいる唯一の研究室である。いま、徐々にその全体像が従来と異なる解析から見えてきた段階にあり、ようやく、コヒーシンの転写反応における役割(伸長反応因子の安定な結合)と最終的にそれが転写産物の構造異常として明らかになりつつある。これらの一連の発見は実はゲノム解析において、対照群で「発現している」遺伝子を一つ一つ丁寧に見ていくことや、近隣の遺伝子との重複によるノイズなどを考慮することでようやく明らかにできたことであり、従来型の解析では見出すことは無理であった。
従来、転写開始反応に重きを置き解析を行ってきたが、今後は特に伸長反応に重きをおいた解析を行う。遺伝子発現プロファイルには細胞ごとのばらつきがあることが知られるが、今後、コヒーシン病やCHOPS症候群の細胞の解析においても細胞間のばらつきを視野に入れることで、新たな発見がもたらされる。一細胞RNA-seq解析を開始しつつ、転写伸長反応におけるコヒーシンローダーの挙動を明らかにしていきたい。特にFACT複合体の脱落はヒストンのevictionを引き起こすと考えられるので、この点を掘り下げたいと考えている。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
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