研究課題
コヒーシンの転写調節機能を探るため、オーキシンデクロンシステムを用いてコヒーシンのサブユニットRad21を急速に分解除去し、転写産物量やRNAポリメラーゼII(Pol II)の染色体上での分布を調べた。トータルRNA-seq、新生RNAのみを検出するEU-seqを行い、コヒーシンの除去は一部の遺伝子の発現のみ変動させ、大部分の遺伝子では発現変動が見られないことがわかった。しかし、Pol IIのプロモーター結合は減少するがプロモーター近傍での一時停止が減少することがPol IIのChIP-seqにより明らかになった。Pol IIの一時停止のステップへの進行を阻害すると、プロモーター結合の減少が見られなくなった。これらのことから、コヒーシンの除去により一時停止が不安定化し、Pol IIのプロモーターからの乖離が促進し、同時に遺伝子内部への流れ込みも増加していることが示唆された。そして、Pol IIの一時停止から伸長反応への移行を促す転写伸長因子複合体のプロモーターへのリクルートが、コヒーシン除去により増加しており、このことが一時停止を不安定化させていると考えている。伸長反応中のPol IIとPAF1の相互作用がコヒーシン除去により減少していることも観察され、コヒーシン除去はPoll IIの一時停止だけではなく伸長反応の制御にも関わっていると予想される。
2: おおむね順調に進展している
コヒーシンが転写のどの局面で必要であるかについて極めて重要な知見がもたらされ、さらに、その結果としての転写以上の実態も明らかとなった。まとめに向けて順調に進んでいる。
コヒーシンの欠損によって異常な構造を持つRNAが作られていること、そして、コヒーシンそのものがRNAポリメラーゼ複合体の成熟に役割を持つことを示せたことは独自の成果と言える。今後はそのメカニズムに踏み込むべく、特にコヒーシンが具体的にどのような分子メカニズムで上記の経路に寄与しうるのかを明らかにする必要がある。一つにはRNAチェックポイントで破壊されていると考えられるRNAの実態を明らかにすることである。様々なRNA分解酵素のKDをコヒーシンAID株を用いて系統的に行い、total RNA-seqを行うことで異常構造RNAについて系統的に明らかにする。現在、クライオ電顕を用いATPase activeなコヒーシンと結合しているポリメラーゼ複合体の構造、コヒーシン非存在下でのポリメラーゼ複合体の構造を明らかにしようと共同研究を推進しており、これにより具体的にどのステップにコヒーシンが必要化を明らかにできることを期待している。また、今までコヒーシンが役割を持つのはCdk9による転写複合体の活性化後であるという研究成果が得られているため、コヒーシンATPaseがCdk9によって活性化する可能性を考え生化学的、細胞生物学的解析を進める。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 5件)
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