研究課題/領域番号 |
20J21638
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長戸 光 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ベルクソン / 教育哲学 / 習慣 / 再認 |
研究実績の概要 |
ベルクソンの「再認」概念に着目する研究の末に、教育哲学における極めて重大な問題系である「習慣(habitude)」の領野を発見した。 ベルクソンによれば、習慣とは、過去の記憶を物質化することによって形成された注意のスコープに他ならない。このスコープを通して我々は現在を知覚する。『物質と記憶』(MM)において、この注意のスコープを形成する作用が「注意的再認」と呼ばれ、このスコープを通じて自らの生活世界の「馴染み」を自動的に再認識する行為が「自動的再認」と呼ばれることになる。この自動的再認とは、すなわち、自動的再認が成立する我々の習慣的生とは、我々の過去の経験・記憶の蓄積に基づいた予期と外界の知覚の間に平衡関係が成立している状態に他ならない。 再認とは、ベルクソンによって、上記の平衡関係が常に<再確認>されることだとされる。とするならば、習慣は、過去の肥大とともに強化される危険性、つまり、新たな習慣の創造に開かれないまま、習慣が閉じた回路を形成してしまうリスクが厳然と存在するのである。ベルクソンは、「我々の自由は、それが顕現する運動そのものにおいて、生まれつつある習慣を創造するけれども、恒常的な努力によってみずからを更新しなければ、自分が作り出した習慣によって窒息することになるだろう」(EC: 128)と述べている。我々の生成は、習慣によって重く条件づけられているという論点が、「我々は過去の重みを背負いつつ、いかにして新しい未来を切り開くことができるか」という問いが、今後の研究の重大な指針となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまで投稿を試みた、「『創造的進化』における「生命的な機械」の問題-クロード・ベルナールの未完の生命の生成論-」(日仏哲学会に応募、2020年12月)、「クロード・ベルナールにおける「生きた機械」の問題-機械の製作と未完の生命の生成論-」(日本倫理学会に応募、2021年8月)は、18-19世紀の生物学史において、生命の生成論、生命の歴史性という観点が導入されることになった歴史的条件を、クロード・ベルナールの生命論に着目して展開したものだったが、リジェクトされた。 また、「ベルクソンにおける現在の記憶の忘却=純粋記憶の生成論-再認の外部はあるか?-(教育哲学会に応募、2021年11月)もリジェクトされた。 2022年度の再投稿を目指して修正し、現在一本は再投稿済み。もう一本は書き直しを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
論文の書き方を改めて2021年度末に学び直した。2022年度は論理構造を明確化した論文執筆を目指す。 また、フランスエピステモロジーの研究と並行し、哲学史・思想史における習慣の問題の位相を見極めているところである。(ドゥルーズの『差異と反復』、現象学〔レヴィナス・ハイデガー・フッサールなどに共通する、現象学的エポケーはいかにして可能かという問い〕、19世紀フランス哲学の習慣論の研究)。
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