研究課題/領域番号 |
20K00015
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研究機関 | 高千穂大学 |
研究代表者 |
染谷 昌義 高千穂大学, 人間科学部, 教授 (60422367)
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研究分担者 |
齋藤 暢人 中央学院大学, 現代教養学部, 准教授 (70339646)
小山 虎 山口大学, 時間学研究所, 講師(テニュアトラック) (80600519)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 実在論 / 観念論 / 新実在論 / 批判的実在論 / 英国観念論 |
研究実績の概要 |
研究実施計画にもとづき、研究分担者3名と研究協力者4名にて、8月と2021年3月の2回、Zoomを用いたオンラインで定例研究会を実施した。世紀転換期にアメリカで生じた新実在論や批判的実在論の反観念論運動が共同かつ分業研究であったことに倣い、定例研究会では分担者・協力者が研究対象としている哲学者の一次文献・二次文献の内容を紹介し知識共有を図り、当時取り組まれていた問題とその現代的意義を検討した。 具体的に扱われた文献を列挙する。8月は、アメリカ新実在論の綱領論文(Holt et. al. 1910“The Program and First Platform of Six Realists”)、アメリカ思想史(Ratner-Rosenhagen, 2019 The Ideas That Made Americaの世紀転換期部分)、命題とその要素についてのMooreとStoutの見解の比較、1817~1879年の心理学史(E. Reed, 1996 From Sout to Mind)が取り上げられた。3月は、RussellとWittgensteinにおける複合性の見識の比較、Aristotelian Society誌上での第二性質をめぐる議論(Percy Nunn, Schiller)、Bradleyの分離と統一をめぐる形而上学とその批判、McTaggart時間論の20世紀前半における扱われ方、the Metaphysical Society(英国)で取り上げられた哲学・宗教・科学にまたがるテーマである。 11月には「アメリカ哲学フォーラム」にて研究協力者3名がパネル「アメリカ哲学の再構築に向けて」を企画し、プラグマティズとアメリカ哲学史の翻訳が昨今刊行されたことを契機にして、翻訳者たちを交えた討論会をオンラインで実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍で移動が制限され、対面での研究会開催は叶わなかったが、オンラインでのビデオ会議の方法を学び、予定していた8月と3月の定例研究会は無事進めることができた。ただし、研究分担者も協力者も、2020年度上半期は、本務校や非常勤講師先でのオンライン形態での授業準備とオンライン授業支援システムの使い方の習熟に多くの時間が取られてしまったため、定例研究会は本来2日間にわたって全員が資料を準備して発表することを予定していたが、そこまでのことはできなかった。 その一方で、一次文献・二次文献を研究員全員が共有できるようクラウドを有効活用し始め、版権がフリーになった世紀転換期の論文や著書を容易に共同で利用できるよう、研究ライブラリーを少しずつ整え始めた。データベースとまではいかないが、少なくとも、研究会にて触れた著書や論文は共有できるようにしている。当初、予想していた以上に、文献環境は整備されつつある。 以上の状況を踏まえて、たしかにコロナ禍で不十分なこともあったが、それを相殺しおおむね順調に進行していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実施計画」にしたがって、前年度と同様に、分担者・協力者の関心領域における一次文献・二次文献の分析調査とその内容の報告、知識共有と問題点・現代的意義の検討を継続する(8月と3月の定例研究会)が、加えて、以下二つの点で観念論と実在論の論争とその変遷を調査する。 第一に、知覚される感覚的性質や関係的性質が、知覚作用から独立か否かをめぐる観念論と実在論の論争である。世紀転換期の英国・米国における観念論批判は、第二性質と関係の存在論的身分に関わっていた。第二性質が、知覚経験される限りで存在する、経験に依存した内的性質であるとする観念論の論拠の論駁が実在論の中心にあった。同時に、第二性質の存在論の問題は、関係的性質の存在をめぐる問題(世界は一か多かという形而上学問題)でもある。観念論者ブラッドリーに反対し、ジェイムズは関係の存在を主張し、その思想は現象学者フッサールにも影響しているが、観念論対実在論の対立という単純な構図では整理できない微妙な差異が論者によってある。 第二性質論争の論点、関係の対象性と存在論的身分の論争の論点、ならびにこうした古典的問題が再燃するきっかけとなった、当時の哲学や心理学の知見や知覚理論・認識理論について、論文と二次文献の調査を実施する予定である。 第二に、分析哲学史のなかに観念論と実在論の論争をどのように位置づけるのかという問題に取り組む。分析哲学はそれ以前の英国観念論を否定することから始まったとされるが、実態はそれほど単純ではなく、もっと複雑な様相を呈している。たとえば、一方でマクタガートの時間論は、英国観念論から分析哲学に引き継がれたが、ブラッドリーの一元論は批判され、分析哲学には引き継がれなかった。なぜどのようにしてこのような違いが生じたのか、アメリカにおける受容も視野に入れて、当時の文献を中心に調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
三つの理由から、次年度への繰越金が発生した。第一に、対面での定例研究会の開催の可能性を想定しつつ分担者と協力者の旅費を残していたが、それが叶わなかったため、第二に、国内学会や研究会への出席にて旅費が生じなかったため、第三に、定例研究会で協力者全員の発表ができずその分の謝金支出がなかったため、である。 当該繰越金は、定例研究会での協力者全員への謝金、定例研究会が対面で実施可能な場合には分担者・協力者への旅費、ならびに研究メンバーが共有できるクラウド上の文献ライブラリー作成の費用として使用する予定である。
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