研究課題/領域番号 |
20K00056
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
片岡 啓 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (60334273)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | シャーリカナータ / 文意 / Vakyarthamatrka / Prakaranapancika / Salikanatha |
研究実績の概要 |
研究対象であるシャーリカナータ(後9世紀後半頃)著「文意論章」のサンスクリット原典について3種の先行刊本(雑誌『パンディット』版、チョーカンバ版、BHU版)および蒐集写本(デーヴァナーガリー文字写本)に基づく原典校訂、そして、校訂テクストに基づく和訳作業を行った。韻文部分については、全体構造を見るために別個に取り出した校訂版も作成することにした。前半(韻文+散文)と後半(韻文+散文)のラフなテクストと粗訳とを作成し、2020年9月に京都大学(学部・院)で行われた集中講義15回において、韻文部分の速読を行い、全体構造を確認したうえで、後半部について参加者(京大の横地優子教授、Somdev Vasudeva准教授、Andrey Klebanov講師を含む)と共に(英語ミディアムで)読み合わせ、今後の精密な読解のための準備作業を終えた。また、学生諸子のために、文意論入門となるイントロダクションを日本語で作成し、「ミーマーンサー文意論入門:Vakyarthamatrkaを理解するために」と題した論文にまとめ、九大文学部の紀要『哲学年報』80号に発表した。また、文意論の周辺となる語意論について議論した論文がオーストリア科学アカデミーより2020年12月に出版された論文集(Reverberations of Dharmakirti's Philosophy. Proceedings of the Fifth International Dharmakirti Conference)に掲載された。そのほか、後900年前後の思想状況を明らかにするために真理論を取り上げた論文を『南アジア古典学』、および、『東洋文化研究所紀要』に掲載することができた。シャーリカナータの歴史的な位置づけを踏まえながら、文意論に関する彼の貢献を明らかにするための文献学的な準備作業を無事に完遂することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
校訂テクストの作成について、後半部のみに注力して2020年度の作業を進める予定であったが、京都大学での集中講義で皆と検討する機会ができたので、突貫工事で全体をラフに校訂することで、結果として、全体の作業が予定より大幅に進展することになった。また、全体について、集中講義に備えて全体の粗訳を急遽作成することにしたので、ち密な作業はまだ多く残すとはいえ、かなりの作業進展が見られた。また、韻文部分の全体構造を見直すことで、韻文と散文との関係、また、シャーリカナータの著作全体の性格についても、結果としていくつかの重要な事項が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
先行する刊本や蒐集写本のうち、比較的容易な写本である北インドのデーヴァナーガリー文字写本については、基本的な作業を終えることができた。今後も同様の作業を他の写本について行う必要がある。いっぽう、時間のかかる南インドのマラヤ―ラム文字写本については、今後、蒐集写本の異読表作成を行う予定である。これが2021年度における作業の主眼となる。また、適宜、和訳をブラッシュアップさせ、脚注をつけていく。さらに、後半分においては、先行する論師であるクマーリラやマンダナの議論に平行句が多く見られるため、平行句情報について、校訂テクストのApparatusに情報を付加する予定である。また、シャーリカナータの前提となるプラバーカラの文意論についても、詳細に跡付け作業を行う必要がある。プラバーカラの文意論については、個別論文の執筆に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
発表予定としていた国際学会二つがコロナ禍により延期されたため、国際学会のために計上していた旅費を、2020年度内に使用することができなかった。すなわち、韓国で開催予定だったInternational Dharmakirti Conferenceおよびオーストラリアで開催予定だったWorld Sanskrit Conferenceが、いずれも延期された。延期のため、2021年度に使用の予定である。また、2020年度に計上していたインド写本調査の費用についても同様に、コロナ禍のため、2021年度に計上し、コロナ禍が収束次第、調査に赴く予定である。
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