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2021 年度 実施状況報告書

インド言語哲学における文意理論の研究:基礎資料の校訂・和訳と思想史再構成

研究課題

研究課題/領域番号 20K00056
研究機関九州大学

研究代表者

片岡 啓  九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (60334273)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2025-03-31
キーワードシャーリカナータ / ミーマーンサー / 文意 / 言語哲学 / 意味論 / 聖典解釈学
研究実績の概要

紀元後9世紀の学匠シャーリカナータの言語哲学解明に必要となる文献学的研究および思想史研究を行った。主著である『プラカラナ・パンチカー』の生成過程を解明するために、諸章の検討を行うとともに、シャーリカナータの他著作との関係も考慮に入れながら、各章の成立過程を明らかにしえた。具体的には、『ヴィマラ・アンジャナ』という章(実際には独立作品)の校訂(『東洋文化研究所紀要』掲載)・和訳(『哲学年報』掲載)を通じて、その解題において、各作品の成立の前後関係を詳しく論じた。本研究が最終的な解明対象とする『文意論』を扱う際に重要となるテクスト生成過程について、新たな知見を提供することができた。『文意論』本文とその自註との成立年代のズレについても、シャーリカナータの他の注釈文献を援用することで明らかにしえた。シャーリカナータの全著作を視野に入れることで、彼の諸作品の前後関係を明らかにすることで、今後、彼の思想の展開についても、見通しがよくなるはずである。また、彼の文意論とも密接に関連する『ミーマーンサー経』冒頭論題の解釈について、ミーマーンサー思想史の出発点となる『シャバラ注』の理解を確認し、個別論考を発表した(『印度学仏教学研究』)。また、シャーリカナータの文意論について、その梗概とポイントをまとめた英語の論考が記念論集中に公開された(カルドナ教授記念論集)。またシャーリカナータの周辺の諭師であるジャヤンタについては綱要書『ニヤーヤ・カリカー』和訳を須藤龍真と共著で論文として発表した。また、ジョン・テイバー教授との共著で、シャーリカナータに先行するクマーリラの言語哲学批判の一端を明らかにする作業として、『頌評釈』「アポーハ論」章の校訂・英訳本をオーストリア科学アカデミーより出版した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

コロナ禍により国際サンスクリット学会をはじめ、発表を予定していた国際学会が延期となっているために、国際学会での発表を本年度に行うことはできなかった。しかし、国内学会についてはオンラインで当初の予定通り、発表を行うことができた。海外に出かけなかった分、関連する周辺の地道な文献学的な作業を国内で進めることができた。すなわち、『文意論』章を含む『プラカラナ・パンチカー』全体の章立ての見通しをよくするために、『ヴィマラ・アンジャナ』章を取り上げて、作品生成過程を明らかにするとともに、各種写本の性格についても見定めることができた。また、シャーリカナータの文意論について、国際的にも高名なインド文法学者であるカルドナ教授の記念論集に拙稿が掲載された。これにより、シャーリカナータ研究の今後の推進のため、大きなインパクトを斯界に残すができたはずである。さらに、ほぼ同時代と目されるジャヤンタとシャーリカナータとの比較についても、ジャヤンタの著作の全体像を捉え直すことで、比較のための準備作業を行うことができた。マクロな視点が用意できたので、今後、ミクロに論点を比較可能となっている。同様に、シャーリカナータに先行するクマーリラとの関係についても、クマーリラの意味論に関する大きな著作を本としてまとめたことで、今後、より細かい視点から、両者の論点の違いについて論じることを可能とする準備が整った。国際学会での発表・研究会での交流は叶わなかったが、その分、地道な仕込みの作業に注力することで、本研究2年目として十分な準備作業を完遂できた。また、当初の予定より多くの成果を公開しえた。

今後の研究の推進方策

シャーリカナータの『プラカラナ・パンチカー』の『文意論』章のサンスクリット原典校訂が本研究の最終目標である。既に発表した『ヴィマラ・アンジャナ』校訂により、これまで未知だった重要な事実が明らかとなった。すなわち、『プラカラナ・パンチカー』全体は後代に編集されたと思われる集成本であり、実際には、執筆時点において、各章は、個別の独立作品としてシャーリカナータが意図していたと思われることである。また、彼の他の注釈作品との相互参照関係や平行句を考慮することで、論点の変化・発展や、作品の前後関係も含め、様々な事実が浮かび上がってきた。つまり、『プラカラナ・パンチカー』研究そのものを、まったく新たな視点からやり直す必要が明らかになってきた。文意論と密接に関連する冒頭論題についても、今後、関連論師の諸論点も含め、思想史的な観点から比較検討を行う必要性を感じている。具体的には、先行するシャバラ、クマーリラ、プラバーカラ、マンダナ、ウンベーカとの比較も考慮に入れながら、シャーリカナータの論点を見極める必要がある。また、シャーリカナータの他の注釈文献における平行句との詳細な比較検討は、これまで全く行われてこなかった研究手法である。しかし、その有効性が『ヴィマラ・アンジャナ』研究において既に確認できた。『文意論』章にもその手法を適用する予定である。

次年度使用額が生じた理由

オーストラリアで2022年1月に開催が予定されていた国際サンスクリット学会、および、2021年夏に韓国で開催が予定されていた国際学会が延期されたため、当初計画の予算を、次年度に回すこととなった。いずれも、2022年度に開催予定であり、参加・発表予定である。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (1件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] A Critical Edition of Salikanatha's Vimalanjana2022

    • 著者名/発表者名
      Kei Kataoka
    • 雑誌名

      東洋文化研究所紀要

      巻: 180 ページ: 1-61

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Salikanatha著Vimalanjana和訳2022

    • 著者名/発表者名
      片岡啓
    • 雑誌名

      哲学年報

      巻: 81 ページ: 1-34

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Nyayakalika和訳(前半)2021

    • 著者名/発表者名
      片岡啓、須藤龍真
    • 雑誌名

      南アジア古典学

      巻: 16 ページ: 151-193

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Nyayakalika和訳(後半)2021

    • 著者名/発表者名
      須藤龍真、片岡啓
    • 雑誌名

      南アジア古典学

      巻: 16 ページ: 195-246

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Sabarabhasya ad 1.1.1の重層性2021

    • 著者名/発表者名
      片岡啓
    • 雑誌名

      印度学仏教学研究

      巻: 70-1 ページ: 1-7

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Sabarabhasya ad 1.1.1の重層性2021

    • 著者名/発表者名
      片岡啓
    • 学会等名
      日本印度学仏教学会
  • [図書] Meaning and Non-existence2021

    • 著者名/発表者名
      Kei Kataoka, John Taber
    • 総ページ数
      292
    • 出版者
      Verlag der Oesterreichischen Akademie der Wissenschaften
    • ISBN
      978-3-7001-8641-0
  • [図書] Indian linguistic studies in honor of George Cardona. Volume I2021

    • 著者名/発表者名
      Peter Scharf (ed.), Kei Kataoka
    • 総ページ数
      531-556を担当
    • 出版者
      The Sanskrit Library
    • ISBN
      9781943135011

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公開日: 2022-12-28  

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