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2023 年度 実施状況報告書

インド言語哲学における文意理論の研究:基礎資料の校訂・和訳と思想史再構成

研究課題

研究課題/領域番号 20K00056
研究機関九州大学

研究代表者

片岡 啓  九州大学, 人文科学研究院, 教授 (60334273)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2025-03-31
キーワード聖典解釈学 / ミーマーンサー / シャーリカナータ / クマーリラ / プラバーカラ / 文意論
研究実績の概要

本研究の主対象であるプラバーカラ派の学匠シャーリカナータの「文意論」の周辺について、関連する研究成果を発表することができた。具体的には、クマーリラ、プラバーカラ、マンダナ、および、ジャヤンタといった諸学匠、また、対立する仏教認識論・論理学派との間の論争史・思想史を整理し、成果を公刊することができた。ジャヤンタの『論理の花房』を中心とした写本研究に関しては『南アジア古典学』18号に和文で、主宰神論証における問題については、シャーリカナータ自身の見解も含め、思想史を渉猟した英語論文をヘルムート・クラッサー追悼記念論集に掲載、また、ミーマーンサー聖典解釈学の基礎学となる後代の綱要書『ミーマーンサー・パリバーシャー』については全訳となる和訳(78頁)を『哲学年報』83号に公刊することができた。さらに、シャーリカナータを含めた教令解釈の発展史について、クマーリラ派とプラバーカラ派の対立を軸に、ミーマーンサー思想史の基本軸を描いた長目の英語論文(87頁)を『東洋文化研究所紀要』185号に掲載した。シャーリカナータの前提となるプラバーカラやマンダナの文意論についても、英語の論文を投稿し、いずれ論文集に掲載予定となっている。証言(正しい言葉)の位置付けをめぐる仏教論理学とバラモン教との対立については、本邦の全国学会である印度学仏教学術大会で発表し、その成果として論文が『印度学仏教学研究』72-1号に掲載された。シャーリカナータの文意論研究に当たっては、聖典解釈学の様々な側面を押さえるとともに、前提となる諸学匠の思想史の整理が不可欠である。最終前年度となる2023年度においては、最終成果の完成に向けて、周辺の足場固めを行うことができた。広く思想史を押さえた東文研紀要論文は、シャーリカナータの歴史的な位置づけを明らかにするものである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

文意論の軸となるクマーリラ派とプラバーカラ派の対立軸について、シャーリカナータに至る思想史を整理した長目の英語論文を公刊できたのは、大きな前進である。これにより、シャバラ、クマーリラ、プラバーカラ、マンダナ、シャーリカナータといった各学匠の基本的な位置づけが明確となった。今後、彼らの思想をより資料に即して詳しく跡付ける際にも、この指針に即すか反するかで、細かい位相が明らかとなる業績である。また、本邦未訳の綱要書『ミーマーンサー・パリバーシャー』(聖典解釈学入門)について全訳を公刊できたことは、今後の聖典解釈学研究に大きく資するものである。他分野からの聖典解釈学の参照もこれにより容易になるはずである。また、欧米研究者との連携も密に取ることで、シャーリカナータ周辺の最新の研究成果についても、現在の進展状況を踏まえながら研究成果を公刊することができた。具体的には、ウィーンのオーストリア科学アカデミーIKGA研究所所長のビルギット・ケルナー教授、シカゴ大学助教授アンドリュー・オレット、トロント大学助教授エリーザ・フレスキ、ニューメキシコ大学名誉教授のジョン・テイバーである。特に、オレット助教授からは、クマーリラの「文法学論題」について教わることが多かった。シャーリカナータの文意論の応用的展開に関連する論題である。オレット助教授が現在進める研究会に参加することで、最新成果について吸収することができた。

今後の研究の推進方策

当初の目標である「文意論」のサンスクリット原典批判についての作業を今後、最終的につめていく。具体的には、シャーリカナータ著「文意論」章の諸写本の異読を網羅した批判校訂版の完成である。異読のみならず、平行句も多く収め、さらに、科段と句読点を整備した読みやすい校訂版の作成を目指す。デーヴァナーガリー文字による印字、また、複数段のApparatusを含む校訂版の作成である。まずは、写本の異読の校合作業が最重要となる。また、関連する平行句の情報として、前提となる学匠であるクマーリラ、プラバーカラ、マンダナ、さらには、後代のジャヤンタまでを広く文献を渉猟する。参照する写本は、北インド写本のみならず、南インド写本も含めて参照する。同時に、和訳も準備し、訳注も整えていく予定である。また、2024年5月末~6月頭にトロント大学で行われる「クマーリラ学会」において関連する成果を発表予定である。具体的には、シャーリカナータの前提とする学匠クマーリラの『タントラヴァールッティカ』の主従関係の一章を取り上げ、クマーリラの全体構想について明らかにする予定である。聖典解釈学の最重要テーマのひとつである主従関係について、クマーリラ派から見た理解を整理する予定である。また、同「クマーリラ学会」には世界中から聖典解釈学研究者が集まる。最新の研究事情について情報交換をするとともに、今後の研究動向を探る予定である。

次年度使用額が生じた理由

全国学会での発表がオンラインでの大会となり、当初予定よりも出張旅費が低くなったため、次年度使用が生じた。2024年度5月末のトロント大学での学会発表旅費として使用する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] 『ミーマーンサー・パリバーシャ―』和訳2024

    • 著者名/発表者名
      片岡啓
    • 雑誌名

      哲学年報

      巻: 83 ページ: 1-78

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] The Evolution of Bhavana and Niyoga2024

    • 著者名/発表者名
      Kei Kataoka
    • 雑誌名

      東洋文化研究所紀要

      巻: 185 ページ: 299-385

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Nyayamanjari写本研究の回顧2023

    • 著者名/発表者名
      片岡啓
    • 雑誌名

      南アジア古典学

      巻: 18 ページ: 147-171

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 独自相が推論されることはあるのか?2023

    • 著者名/発表者名
      片岡啓
    • 雑誌名

      印度学仏教学研究

      巻: 72-1 ページ: 104-111

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 独自相が推論されることはあるのか?――風の推論をめぐるディグナーガの議論――2023

    • 著者名/発表者名
      片岡啓
    • 学会等名
      日本印度学仏教学会
  • [図書] Burlesque of the Philosophers: Indian and Buddhist Studies in Memory of Helmut Krasser2023

    • 著者名/発表者名
      Vincent Eltschinger, Jowita Kramer, Parimal Patil, Chizuko Yoshimizu, Jinkyoung Choi, Isabelle Ratie, Toru Funayama, Paul Harrison, Jens-Uwe Hartmann, Pascale Hugon, Kazuo Kano, Kyo Kano, Kei Kataoka, Shoryu Katsura, Robert Kritzer, Taiken Kyuma, Christian Luczanits, Klaus-Dieter Mathes, Patrick McAllister
    • 総ページ数
      918
    • 出版者
      Projekt Verlag
    • ISBN
      978-3897335851

URL: 

公開日: 2024-12-25  

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