研究課題/領域番号 |
20K00079
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小島 宏 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (90344241)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 西欧 / ムスリム / 若年者 / 宗教実践 / 宗教人口学 / 結婚 / 健康 / コロナ禍 |
研究実績の概要 |
2021年度の実証研究の実績としては、ベルギーで1994~95年に実施されたモロッコ系・トルコ系男性に対する全国調査、『移動歴と社会移動』(MHSM)調査のミクロ(個票)データに比例ハザードモデルを適用して、ムスリム移民二世男性(35歳未満に限定)における宗教実践の初婚タイミングへの影響の分析結果を日本中東学会第37回大会で報告した。すべての移民世代のムスリム若年男性に関する分析では移民2世で初婚が遅れる傾向があるが、ラマダン中の断食と子羊屠畜参加経験は比較的大きな初婚促進効果をもち、毎日礼拝と女性はベールをすべきとする意識も初婚促進効果をもった。 他方、大学が海外出張を禁じており、イギリスで現地調査ができないため、日本の調査会社経由で2021年11月に18-39歳のムスリム男女を対象とする小規模ウェッブ調査「コロナ禍における英国ムスリムの宗教実践(“Survey on Islamic Practices during COVID-19 Pandemic”)」(N=328)を実施した。予備的なロジット分析により、宗教関連要因の健康に対する影響を明らかにすることを試みた。肉体的健康が良いのはマドラッサに通わなかった者、友人の約半数がムスリムの者、ムスリム友人の少数がインターネット経由の者で、良くないのは宗教的・民籍的結婚手続きをした有配偶者、モスクで頻繁な礼拝をした者であった。また、調査時の精神的健康が良いのは白人ムスリム、アジア系ムスリム、マドラッサ(補習クラス)に通わなかった者、友人の約半数がムスリムの者、ムスリム友人の少数がインターネット経由の者で、良くないのは宗教的・民籍的手続きをした有配偶者、モスクで頻繁な礼拝をした者であった。肉体的健康状態と精神的健康状態に対してほぼ同じ変数が影響を与えているが、宗教性がやや低い場合に健康状態が良いという直観に反する結果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度もコロナ禍により、大学により海外出張が禁止されたため、イギリスでの現地調査ができなかった。そこで、日本の調査会会社を通じて小規模なウェッブ調査を実施したが、コロナ禍との関連でムスリムの宗教実践を分析した実証研究が内外で少なかったため、調査票設計に手間取り、調査実施が11月になってしまった。 そこで、その間、西欧諸国のムスリムに関する文献(書籍、インターネット上のもの)の収集・整理と、西欧諸国のムスリム調査のミクロ(個票)データ(インターネットで利用可能なもの)の収集・整理を行った。また、ベルギーのムスリム男性調査のミクロデータの初婚タイミングへの宗教実践の影響に関する分析を行い、学会報告(オンライン)を行った。 11月実施のイギリスでのウェッブ調査の調査票設計等に時間を取られたため、調査項目がかなり異なる先行調査である、ベルギーのムスリム女性調査のミクロデータの分析は行えなかった。しかし、2021年度末にかけて5月の日本中東学会での報告に向けて英国ウェッブ調査の予備的分析を行うことができて、興味深い結果も得られて多少は遅れを取り戻すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度もコロナ禍により、大学により海外出張が禁止されているため、イギリス等での現地調査ができないであろうし、また、海外での対面での学会報告等もできないであろ。そのため、引き続き西欧諸国のムスリムに関する文献(書籍、インターネット上のもの)の収集・整理と、西欧諸国のムスリム調査のミクロ(個票)データ(インターネットで利用可能なもの)の収集・整理を行う。その上で、収集した西欧のムスリムや宗教実践に関する文献による文献研究を行い、特に、イギリスでのウェッブ調査の実証分析結果の解釈に役立てる。また、イギリスでのウェッブ調査の報告書を作成するとともに宗教実践と健康やコロナ禍対処行動に関する実証分析を優先して進め、学会報告や論文作成を行う。時間的余裕があれば、2021年度に行えなかったベルギーのムスリム女性調査のミクロデータの分析と、新規に収集した西欧諸国スリムに関するミクロデータの分析に着手する予定である。さらに余裕があれば、西欧諸国スリムに関するマクロデータも収集整理する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はイギリスでの小規模のウェッブ調査を実施できたため、繰り越された委託費の大部分を使うことができた。しかし、内外でのコロナ禍の継続のため、大学により海外出張が禁止されており、イギリス等での現地調査ができず、外国での各種学会等での発表のための出張も禁止されていたため、出張旅費がまったく使えなかったことにより、次年度使用額が多少生じた。 次年度使用額は比較的少額なので、書籍購入やオンラインの海外学会参加費等に使うことにする。
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