東南アジアの近代美術史研究については、おおまかな各国別の美術史の語りは定説として存在するものの、より深い問題意識に基づいた研究、実証的な研究、あるいは個別の作家、作品研究はまだ少ない。また既存の「定説」に関する批判的な検証も端緒についたばかりである。本研究は、「ナショナル・アイデンティティ」という観点から、東南アジアという地域における近代美術に共通する問題意識を深化させたところに学術的意義がある。同時に、日本近代美術と比較することで、日本近代美術史においてはあまり問題として意識されないナショナル・アイデンティティと美術作品の問題を顕在化させる意義もある。
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