研究課題/領域番号 |
20K00191
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研究機関 | 金沢美術工芸大学 |
研究代表者 |
荒木 恵信 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 准教授 (00381690)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 木村貞綱 / 日本美術史 / 日本絵画 / 絵画技法 / 文化財保存 / 文化財 |
研究実績の概要 |
貞綱は、本研究の対象である仏画の他、多数の頂相も制作している。各々の作品は、求められる主題や教義などの規定に応じて仕上げられており、そのことも含めてこれらは常に貞綱の絵画理論の元に成立していると考えられる。しかし、貞綱独自の創造性に関わる部分の絵画理論を探究するには、特に黄檗宗の頂相のように、図様や構図にみられるある型を踏襲しつつ描かれた作品を他の作者のものとの比較することも必要であるが、貞綱の独創の度合いがより高いと考えられる作品について、詳細な原本調査とその結果からの考察を充実しなければいけない。このように原本調査は本研究に不可欠な要素であり、実施について所蔵者との打ち合わせを進めていたが、次項の「現在までの進捗状況」でも示すように新型コロナウィルス感染防止のため延期せざるを得なかった。 一方、貞綱の絵画理論には、貞綱の活躍した江戸時代初期の時代性や社会性、創作の拠点と考えられる関西圏の地域性や風土、貞綱の人脈、同時代の絵師とその作品、貞綱が鑑賞した先人の作品などが影響を及ぼしていると考えられ、先述の原本調査結果と共に総合的に捉えて検討すべきである。 時代生や社会性の点において、黄檗宗が貞綱へ与えた影響は大きいと考えられる。当時の絵師たちは、黄檗宗がもたらした絵画の新たな方向性を受け入れており、貞綱も頂相を制作している。それらは黄檗宗の他の頂相と同様にある型に則って描かれているものの、貞綱の絵画理論と無関係ではないだろう。残念ながら、頂相についても原本を調査する機会を得られていないため、現時点では図版のみの考察に止まっている。 人脈の点では、黄檗宗の僧侶たちとの関係も重要であるが、絵画理論の側面からは木村性の絵師たち、特に徳応からの影響に注目する必要性を考えている。その根拠として貞綱は、法然院所蔵「阿弥陀聖衆来迎図屏風」に「徳応二世」と自著していることが挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は、原本調査の結果から制作技法を検証し、貞綱の絵画理論を追求するものである。しかしながら、予定していた原本調査を新型コロナウィルス感染防止対策のため延期せざるを得ず、進捗に大幅な遅れが生じている。緊急事態宣言などの発生により大学の使用規制や県境を越える国内出張の禁止及び規制、所蔵者への配慮のため原本調査を実施できなかった。加えて、原本調査の結果から推測して検証する予定であった貞綱の制作技法に関わる検証試験についても進められない状態だった。 また、教育現場として、新型コロナウィルス感染防止対策下における教育活動を維持するため、オンライン授業の環境整備や授業展開、講義の構築など、例年にない予期せぬ特異な状況による仕事量の増加と、これによる時間的制限が強いられたことも進捗に遅れを生じさせる理由として挙げられる。このようなことからは文献調査なども停滞を余儀なくされた。
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今後の研究の推進方策 |
原本調査をできる限り当初の計画に則り遂行する。所蔵先での現地調査となるため、実施日や調査方法などについて所蔵者並びに研究協力者と共にスムーズな調査の実現に向けて打ち合わせを進める。その際、新型コロナウィルス感染防止のため行動の規制が発生する可能性を考慮し、実施日の変更の対応についても事前の検討事項とする。時間的制約がある中で効率的に成果を得るために、本研究において重要度の高い作品や、調査の実現の可能性が高い作品など調査対象作品に優先順位を付す。 制作技法の考察においては、当初の計画通り原本調査の考察によって試験片を作成し検証する方法に加え、研究実施前の事前調査や文献資料、図版資料などによる推察から試験片を作成して検討する方法も実施する。これら2つの方法の過程で、構図、図像及びその他描かれるモチーフと絵画的特徴、配色、彩色法、色調、描線の質と描き方、截金などによる加飾法、作品の雰囲気、制作工程の順序や膠の種類及び濃度、筆や刷毛などの道具類の時代性や地域性などについての考察も深める。試験片は、可能な限り原本調査に持参して比較調査を行うことで考察の信頼性を高める。 制作技法の客観的妥当性を検討するため、貞綱の仏画の再現図を制作する。再現図の対象として適した仏画を作品の内容や保存状態から選択する。再現図は原本と同寸で実施し、必要に応じてトリミングする。完成した再現図について広く批評を得るため、研究協力者との協議の他、再現図と原本との比較調査を実施したい。 解明した制作技法を軸として貞綱の仏画に関する絵画理念を追求する。同時代及び主題における類似作品との比較調査によって、貞綱の仏画にある独自性、他の作品との類似性を判断する。 研究成果の発表は報告書を刊行すると共に、再現図の展示などによって一般の人々にも視覚的でわかりやすい方法で行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の基盤として早々に実施すべき原本調査が、新型コロナウィルス感染防止対策のため実施できなかった。これによって、原本調査とそこから発展し研究する予定だった事項についての研究費が次年度使用となった。これらの費用については、当初の計画に則り、原本調査とこれに係る研究の費用として使用する。
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