研究課題/領域番号 |
20K00191
|
研究機関 | 金沢美術工芸大学 |
研究代表者 |
荒木 恵信 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 准教授 (00381690)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 木村貞綱 / 近世仏画 / 日本絵画 / 絵画技法 / 文化財 |
研究実績の概要 |
木村貞綱の制作と考えられる以下3点の仏画を調査し、各々について研究計画に沿った考察を実施した。 蓮華寺所蔵「十三仏来迎図」は、学術的に新出の作品である。本研究の事前準備として目視調査を行なっていたが、改めて今回、光学機器を用いた自然科学的調査を実施した。調査日は、2021年9月23日から26日。調査内容は、目視調査、色合わせ、蛍光X線調査、高精細デジタル画像撮影(通常光画像、近赤外線画像)である。調査の参加者は、筆者、神居文彰(研究協力者)、早川泰弘(研究協力者)、城野誠司氏(東京文化財研究所)、研究協力学生1名。本作品の来歴は不明である。以前に現所蔵者によって修理を実施しているが、現在のような文化財保護を前提とした方法とは施工が異なると考えられる。事前準備としての調査では聖衆の尊容や色彩も良好に思われたが、今回の高精細デジタル画像調査などによって折れやシミの状況が把握でき、部分によっては絵具に後補の可能性も考えられ、慎重な判断が必要である。 西國寺所蔵「涅槃図」について2021年9月27日に調査を実施した。調査内容は、目視調査、色合わせ、簡易的なデジタル画像撮影。調査者は、筆者と研究協力学生1名、蓮華寺副住職(所蔵者を紹介頂いた)である。 大雄寺所蔵「釈迦涅槃図」について2021年10月21日に調査を実施した。調査内容、目視調査、色合わせ、簡易的なデジタル画像撮影。調査者、筆者と研究協力学生1名である。 現段階までに調査した貞綱の仏画に関して、制作方法や描画について考察を進めている。諸尊の顔貌表現や装飾の描き方などに特徴を見出せる部分があるが、一方で貞綱は仏画を描く際の手本に則っていることが多いのではないかと考えている。その手本とは、木村徳応に由来するものであり、それほど貞綱の仏画は徳応のものと近似している点が多い。貞綱の絵画理論には徳応が密接に関わっていると推測している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
初年度に引き続き、新型コロナウィルス感染防止対策のため作品調査の実施が難しく、予定していた作品の調査は完了できなかった。研究当初予定していた作品数は約10点であり、今後5点の調査を実施したいと考えている。 一方で、調査の機会に恵まれた作品の調査結果の解析や考察を進める中で、貞綱に対する徳応の影響力の大きさがうかがわれることから、改めて貞綱の仏画と徳応の仏画との比較調査が必要となった。徳応の仏画の他にも、同時代に活躍した諸派の絵師などによる作品や同主題の仏画との関連性についての考察も必要である。この様なことから技法や色彩、形などその類似や隔たりに注視した俯瞰的な作品調査を進めている。 今回、新出の作品を確認し、調査に恵まれたことは非常に良い成果であった。新出の作品はより慎重な検討を要すため、当初の計画以上に時間を費やす必要があった。研究協力者や他の調査者による客観的な意見も参考に検証しているところである。 原本調査が進まないため、再現図に共する資料が揃わず制作作業が滞っている。再現図には原本と同寸の歪みのない画像が必要であるものの入手が困難であり、貞綱の作品における描画方法や描く際の癖などの考察を進めるにとどまっている。
|
今後の研究の推進方策 |
原本調査を当初の計画に則り完了する。これまでの研究の経緯から重要度の高い作品について、光学機器を用いた自然科学的調査を実施する。これによって、現状模写に使用できる画像を作成したいと考える。 制作技法の考察においては、当初の計画通り原本調査の考察によって試験片を作成し検証する方法を継続すると共に、研究実施前の事前調査や文献資料、図版資料などによる推察から試験片を作成して検討する方法も同様に継続する。これら2つの方法の過程で、構図、図像及びその他描かれるモチーフと絵画的特徴、配色、彩色法、色調、描線の質と描き方、截金などによる加飾法、作品の雰囲気、制作工程の順序や膠の種類及び濃度、筆や刷毛などの道具類の時代性や地域性などについての考察を深め、試験片は可能な限り原本調査に持参して比較調査を行うことで考察の信頼性を高める。 制作技法の客観的妥当性を検討するため、貞綱の仏画の再現図の制作を実施する。再現図の対象として選択した作品の現状の画像を作成する。再現図は原本と同寸で実施し、必要に応じてトリミングする。完成した再現図について広く批評を得るため、研究協力者との協議の他、再現図と原本との比較調査を目指す。 解明した制作技法を軸として貞綱の仏画に関する絵画理念を追求する。同時代及び主題における類似作品との比較調査によって、貞綱の仏画にある独自性、他の作品との類似性を判断する。 研究成果の発表は報告書を刊行すると共に、再現図の展示などによって一般の人々にも視覚的でわかりやすい方法で行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度に引き続き、本研究の基盤として早々に実施すべき原本調査が、新型コロナウィルス感染防止対策のため全てを実施するまでには至らなかった。今後続けて原本調査は実施する必要がある。加えて、原本調査とそこから発展し研究する予定である事項について、調査進展分は進めているが十分とは言えず、研究費が次年度使用となった。これらの費用については、当初の計画に則り、原本調査とこれに係る研究の費用として使用する。
|