本年度は、前年度に引き続き文献資料の収集と検討を行うとともに、研究当初より予定していた国内・海外における作品の実見調査を精力的に行い、本研究にとって特に重要と考えていた中国での調査を重点的に実施することができた。 中国での調査は、①上海博物館、②台湾・国立故宮博物院、③福建省~浙江省であり、作品調査および関連する史蹟調査を行ったほか、現地の研究者と直接会い、研究交流を行った。①では上海青龍鎮遺址隆平寺塔地宮から出土した金属工芸をはじめ、上海周辺遺跡からの出土品のうち関連するものの詳細な観察調査を行い、②・③でも金属工芸および関連作品を実見調査した。金属工芸で重要な工具である鏨を用いた線刻技法や鋳造の技法に注目しながら、昨年度の調査で対象とした金属製の小型仏塔について比較検討を行った。また、これらの仏塔にあらわされた図像の表現を検討する観点から、同形であるが石造の仏塔についても調査を行い、新たな視点を得ることができた。 今年度の調査では本研究の要として、工具を用いて線刻する技法と図像表現にとくに注目して観察を行い、これらに共通性が見られる作品を見いだすことができた。このことは、研究目的である制作技法と視覚的な効果の関連を考えるために、また、時代や製作地を判定する手がかりとして大きな成果となった。成果の一部については、論文「「鏡像/線刻鏡」の考察――図像を見いだす」を『「見える」ものや「見えない」ものをあらわす 東アジアの思想・文物・藝術』(勉誠社、2024年3月)に掲載したが、本研究期間に調査することができた内容をさらに整理・精査し、金属工芸に用いられた制作技法が視覚的な効果に与えた意義について考察を深め、成果を発表する予定である。
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