本研究では、各地に残された医師の診療記録を用いて、日本の地域医療の近代化の過程を明らかにした。その際、医療費支払い・家族内の医療受給・医療的所見という3つの観点を重視した。まず医療費の支払方式と支払率、および家族の医療受給と医療費支払いの2点については、明治期を通じて近世的な慣行を多分に引き継いでいる傾向が読み取れる。他方で、医療記録に記された医療的所見からは、明治期に供給された医療の質の多様性と新たな医学に対するキャッチアップへの指向を読み取ることができた。したがって、地域医療の近代化は、医療の内容面が支払いの単位に連動した支払い方式に先行して進行したといえる。
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