研究課題/領域番号 |
20K00411
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
日臺 晴子 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (40323852)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 感情 / 理性 / 自然哲学 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本研究は、18、19世紀に書かれたイギリスの小説の中での男性の落涙に纏わる表象を通時的に分析することを通して、小説の黎明期の作品における男性の涙と18世紀の後半の作品で大量に流されることになった男性の涙の質的違いが何に起因するのか、そして19世紀に男性の涙が異常を示すものとして周縁化されていったのは何故かということを明らかにすることを目的とする。令和2年度は、18世紀前半に書かれた小説、Daniel DefoeのRobinson Crusoe、Jonathan SwiftのTravels into Several Remote Nations of the World, in Four Parts. By Lemuel Gulliver、Henry FieldingのThe History of Tom Jones, a Foundling (1749)を精読し、男性が涙を流す描写について考察した。Defoeの作品では、身体的苦痛、親不孝に対する悔恨、神に見放された絶望などにより、主人公は涙するのに対し、Swiftの作品には身体的苦痛によって涙する場面しか見出されなかった。一方で、世紀半ばに書かれたFieldingの作品においては、落涙の場面の増加とともに他者の苦しみを思って涙する場面が飛躍的に増えていることがその特徴として挙げられ、また流される涙が流す人物の優れた人格、人間らしさの表出に関係づけられていることがわかった。これらの作品における男性の涙の質的違いを考察するために、John Locke、David Humeなどの感覚に関する著作にあたり、17世紀の科学革命からの影響が無視できないことが確認された。 研究の成果としては、共著書『幻想と怪奇の英文学IV』において、論文「モノ語るゴシック――『オトラント城』と『ドリアン・グレイの肖像』に見る物質性」の執筆が挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
イギリスの王立協会および大英図書館での資料調査を予定していたが、新型コロナウィルス感染拡大による渡航制限により断念した。また、令和2年度を通して、オンライン授業等のコロナ対応により、著しく時間を割かなければならなかったため、国内で収集出来た資料にもすべて目を通せていない状態となってしまったため、このような進捗状況と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に予定していた海外での資料収集がいつ可能になるのか不透明な状況であったため、当該年度は、令和3年度に読む予定であったLockeやHumeを先に読んだ。令和3年度には、18世紀後半に書かれたHenry MackenzieのThe Man of Feeling (1771)を読み、主人公が涙を見せる場面における感情と理性の働きを分析し、令和2年度に分析した三作品との比較を行い、18世紀の神経解剖学の世界で繰り広げられた「感覚原理」(sentiment principle)を唱えるRobert Whyttと「刺激感応性と感受性」を主張するAlbrecht von Hallerの論争についての資料を読み、感受性と理性の関係について考察する。その際に、令和2年度に読むことができなかった17世紀王立協会創世記の自然哲学者たち(主にBoyleとWillis)の資料も併せて読み、考察に加えることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染拡大により、予定していた渡航ができず、次年度使用額が生じた。渡航ができるようになってから、海外での資料収集を少し期間を長めにとって行いたい。
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