研究実績の概要 |
今年度もイギリス・ノリッジへの調査がコロナ猖獗で行えず、日本で入手可能な文献を用いた調査・研究が主になった。 まず、ノリッジのピューリタニズムに関する文献の収集と調査、特に、セント・アンドリューズ教会主任牧師ジョン・モアに関する史料を渉猟し、モアが残したテクストを丹念に調査した。その結果、改心や救済などの神学的事柄に関するモアの考え方が特に「聖書の言葉を聞くこと」に重点を置いていること、そしてそれがグリーンの改心物語に反映されていることがわかった。おそらくそこにセント・アンドリューズ教会のローカルな繋がりを跡づけることができるだろう。 さらにロバート・グリーンの作家としての自己形成とその手法について、グリーンの改心物語自体のナラティヴの特徴を理解しつつ、『グリーンの幻』(Greene’s Vision, 1590)、『グリーンのまだ間に合う』(Greene’s Never Too Late, 1590) 、そして劇作品『ロンドンとイングランドに掲げる鏡』(A Looking Glass for London and England, 1590)が改心物語のナラティヴとどのように関わるかを詳細に分析した。とりわけ『ロンドンとイングランドに掲げる鏡』は、散文作品とはジャンルが違うものの、グリーンが改心ナラティヴを開始した時に制作されたばかりか、当時の反劇場主義運動に対して劇場サイドから反論を試みた劇作品でもあるため、グリーンの道徳的作家としての自己形成を追う重要な作品であることがわかってきた。
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