研究課題/領域番号 |
20K00465
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中地 義和 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (50188942)
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研究分担者 |
鈴木 雅生 学習院大学, 文学部, 教授 (30431878)
MARIANNE SIMON・O 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (70447457) [辞退]
塚本 昌則 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (90242081)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ル・クレジオ / アジア文化 / 自伝 / 脱-西欧中心主義 |
研究実績の概要 |
本研究最終年にあたる令和5(2023)年度は、ル・クレジオ(1940- )のアジア文化への関心を、彼の脱-西欧中心主義、非-西洋文化への関心というグローバルな文脈のなかで捉えなおすことを試みた。その手がかりとして、作家が80歳を前にして刊行した自伝的評論『ブルターニュの歌』の翻訳と解説を試みた。2024年3月に刊行した(作品社)。この書物に収録された2篇(「ブルターニュの歌」、「子供と戦争」)と既刊の『アフリカのひと』(2004年/邦訳2006年)とは、作家ル・クレジオの幼少期から思春期にいたる知的感性的形成、ひいては彼のアジア文化への関心の由来を考えるのにきわめて重要な文献である。 作家の先祖のルーツは、ラテン文化を基盤とするフランスのなかの辺境ともいえる、ケルト文化の色濃い西北部のブルターニュにある。しかも18世紀末のフランス革命時にインド洋上のモーリシャスに移住し、そこに根づいて4世代を重ね、作家の父親の代にフランスに引き揚げた一家である。作家の父親は戦前・戦中・戦後の20年にわたってイギリス軍医として僻地医療に従事した人で、7歳のル・クレジオは母、兄とともに父と合流し、約1年をアフリカの地で過ごしている。ル・クレジオの小説作品の多くが非ヨーロッパを舞台とし、彼の評論に西欧文明を相対化する視座が強く感じられるのは、このような出自や幼少期の経験と密接な関係がある。 アフリカが未来の作家に自然との直接的接触を通して感覚的開放をもたらし、青年期に知ったインディオ文化が儀礼や習俗を通して別種の世界観を開示したのに対し、中国、朝鮮、日本の文学、とくに漢詩、時調(シジョ)、俳句といった詩歌は、自然と言葉との間に取り結ばれる独特の関係によって彼を魅了したのではないかというさしあたりの結論を得た。
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