研究課題/領域番号 |
20K00567
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
篠原 和子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00313304)
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研究分担者 |
秋田 喜美 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (20624208)
宇野 良子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40396833)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 音象徴 / 子音 / 阻害音 / 共鳴音 |
研究実績の概要 |
R3年度は,コロナ禍のため研究が遅れたR2年度の研究計画を補う形で,オンラインで実施可能な部分を進捗させた。 まず,子音の音声学的特徴が異なる日本語と英語での音象徴イメージの差異の発生について,十分にデータがそろっていなかった部分を中心にオンライン実験を行い,データを補った。日本語では有声阻害音のほうが無声阻害音よりも「硬い」イメージが喚起されるのに対し英語では無声阻害音のほうが有声阻害音よりも「硬い」イメージが喚起されることがこれまでにわかっていたが,これについてより統制された実験刺激セットを構築して実験を行い,それにより当該現象を再確認できた。 もうひとつは,かねてより代表者が研究してきた音象徴の語頭効果の日英語比較である。語頭効果について日本語と英語で違いがあるのかどうかを,「阻害音が共鳴音よりも硬いイメージを喚起する」という,それ自体は日本語と英語で違いがないと思われる音象徴対応を用いてオンライン実験により確認する作業を行った。その結果,日本語ではみられた語頭効果が英語では生じないことを示すデータを得た。これは,無意味語内において阻害音が発生する位置を操作することによって最小対となるペアを作成し,同一条件で評価実験を行うことにより,阻害音が語頭にあるときにより強く「硬い」イメージが喚起されるかどうかを検証する実験であった。2音節語では,日本語は第1音節(語頭)に阻害音があるときのほうがそうでないときよりも「硬い」イメージが強く出るのに対し,英語では第2音節に阻害音があるときのほうがそうでないときよりも「硬い」イメージが強く発生した。このような,子音の位置による音象徴イメージの違いは,これまで国際的にも確定的な研究成果が発表されておらず,新規な発見といえる。R4年度に論文化を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度より3年間の計画で開始した研究であるが,初年度にはコロナ禍の影響でオンライン業務への切り替えに時間と労力が割かれ,研究がほとんど進捗しなかった。2年目にあたる2021年度にも,コロナ禍が収束しておらず,一部の研究は予定通りの進捗が実現しなかったものもある。たとえば,対面での研究会議は差し控えていたため,他機関の協力者との連携を綿密に図ることができなかった。オンライン会議システムを用いることで補ったが,これには精密さの点で限界がある。特に,新規に実験導入をする言語に関して適切な協力者を得ることがなかなかできなかった。 一方,被験者確保はオンライン実験でも可能で,すでに準備が完了し実験開始が可能となったものについてのデータ収集は「研究実績の概要」に記載したように,進捗している。具体的には,英語話者を被験者とし,有声阻害音と無声阻害音による「硬さ」の音象徴イメージ喚起を調べる実験を実施した。また,すでに日本語については存在が確認されている「語頭効果」が英語にも該当するのかどうかを調べるための実験を,オンラインで構築し,データ収集まで完了している。これについては日本語話者でも確認のため同様の方法によるオンライン実験を行い,英語との比較分析ができるようにした。データはすでに集まっており,論文化の準備がほぼ整っている。 また,英語・日本語以外の他の言語についても同様の実験研究を行い比較をする計画であったところ,現時点で実験サイトの準備が整いつつあるのはフランス語のみであるが,R4年度には実験の実施が可能なところまで準備が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
R3年度の研究成果についての論文執筆を,R4年度に行う。とくに上記の「音象徴の語頭効果に関する日本語と英語の差異」は,これまで国際的に定説がなく研究成果もほとんど見られない新規な発見であるので,できるだけ早期にしかるべき媒体に論文を公開する予定である。 また,この語頭効果の日英語の差異については,R3年度に実施したのは2音節語での実験であったため,英語でみられた日本語とは異なる音象徴効果が「第2音節にある子音の効果」なのか,それとも「最終音節にある子音の効果」なのか(3音節以上の語の場合にどの音節の子音が最も効果をもつのか)については判別できなかったので,さらに刺激語の構造を工夫することによりこの点を明らかにする補足実験をR4年度に行うことができればと考えている。 有声阻害音と無声阻害音に関する日本語と英語の音象徴イメージ喚起力の違いについてはほぼ確定的な結果が得られた。ただしこれが英語の阻害音と日本語の阻害音のどのような音声学的性質に起因するものなのかは,この2言語のみからの考察では不十分であり,本研究課題のメインの目的である,類型論的な仮設検証モデルを構築するためには,日本語・英語以外の他の言語でも同様の実験を行う必要がある。そのため,フランス語(英語よりも阻害音の発音時のエネルギーが小さく,日本語の阻害音に近い)を用いた同様の実験を実施する。すでに実験サイトはほぼ完成しており,日本在住でないフランス本国のフランス語母語話者を被験者として確保するための人的交渉に入ろうとしているが,これをR4年度には推進する。 本課題は,コロナ禍の影響でほぼ1年,研究の進捗が遅れているため,R4年度には2年度分の研究進捗を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
R2年度に引き続き,コロナ禍により研究内容の一部を変更せざるを得なかった。ことに,学会発表が大きく影響を受けた。旅費の支出予定金額は比較的大きい数字であったところ,特に海外渡航が困難となったため,旅費の支出が発生しなかった。また対面での研究会議を可能な限り避けたことも加わり,旅費の支出が予定よりも大幅に少ない結果となった。 コロナ禍の影響は,研究協力者(海外含む)の確保のための交流ができないことにもつながり,これらに予定していた支出が発生しなかった。 R3年度にはデータ収集を中心に実施したが,論文執筆はR4年度に回したため,英文校閲費や論文掲載費などもR3年度中の経費としては発生していない。これらは,R4年度に支出予定である。 コロナ禍の状況が改善し次第,国際会議への参加や国際協力者との研究会議を再開し,予定していた研究を実施してゆく予定であり,R4年度にはこれまでより多くの支出があると見込まれる。
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