研究課題/領域番号 |
20K00592
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研究機関 | 岩手県立大学宮古短期大学部 |
研究代表者 |
田中 宣広 岩手県立大学宮古短期大学部, その他部局等, 教授 (60289725)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 東北地方北部域諸方言 / のぼりアクセント核 / 北奥式アクセント / 南奥特殊アクセント / 2音節名詞第Ⅳ・第Ⅴ類末尾母音狭広 / 重起伏調 / 低平調 / 尾高調 |
研究実績の概要 |
当研究の目的としている,岩手県から北側(青森,秋田,岩手3県)の東北地方北部域諸方言のアクセントの地理的境界線を確定のため,当年度:第2年度には,各区域 から数地点ずつ,言語実態調査し,それらの結果を整理しつつ分析を進め,近接地点同士の実態について比較して考察することができた。 第2年度に実態調査できた地点は以下の計10地点である。【1】「北奥式アクセント」の基本体系=岩手県中北内陸部アクセント区域(2地点):岩手県紫波郡紫波町片寄地区・岩手県岩手郡雫石町南畑地区;秋田県アクセント区域(1地点):秋田県横手市黒川地区・/【2】「北奥式アクセント」の太平洋沿岸部体系=青森岩手両県太平洋沿岸部アクセント区域(6地点):青森県八戸市類家青葉地区・青森県八戸市根城地区・岩手県宮古市大通・岩手県宮古市高浜地区・岩手県山田町豊間根地区/【3】「南奥特殊アクセント」=岩手県南部宮城県北部アクセント区域(1地点):岩手県一関市藤沢町黄海地区,であった。 このなか,特筆される成果は以下のものである。[1] 山田町豊間根地区は,宮古市津軽石と山田町中心部との中間地点であるが,語的なアクセント型所属で山田町中心部のものに近いことが確認されたこと・[2] 「南奥特殊アクセント」の一関市藤沢町黄海方言は,その特徴:語頭に 「のぼり核」のある語例が原則的に認められない体系であるのはもちろんのこと,一関市中心部方言には認められない,起伏式動詞での末尾上昇・低平式動詞と起伏式動詞で「-ない」相当語接続時は[○○「ネャー\]と一型化していること・[3] 【2】「北奥式アクセント」の太平洋沿岸部体系の地域でありながら,宮古市田老川向方言では,同体系の特徴:重起伏調が観察されず,「言語島」の状況にあると推認されること。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画以上に進展している,と判断した理由は以下のとおりである。 (1)調査の進捗:当初計画案では,第2年度について10地点の言語実態調査と資料の整理を進める予定のとおり,「研究実績の概要」での説明の10地点の調査をすることができた。8月に緊急事態宣言もあって延期の地点もあったなか話者の方々のご協力により完遂できたものである。このような厳しい状況のなかで,地域言語の話者としてご協力いただいた皆様から親しくご教示を戴き,臨地調査をなし得たこと自体,成果といえる。 (2)比較の成果:調査結果については,近接地点同士,すなわち,アクセントが同体系かもしくは関連する複数地点での比較考察を実施したところ,事前では,語レベルでのアクセントも,ほぼ同様と予測していたものが,相当の相違を認めるに至ったことである。この比較にあっては,過去の調査地点での結果とも比較している。 なかでも【4】「南奥特殊アクセント」では,第1年度調査の岩手県一関市山目青葉方言と第2年度調査の一関市藤沢町黄海方言を比較したところ,近接地域の同じアクセント体系に所属する2方言のであっても,類別レベルでアクセント型に相違が認められること,藤沢町黄海方言のほうが一関市山目青葉方言よりも,「南奥特殊アクセント」の元祖的相の認められることが明らかになったのは,特筆すべき成果だと思われる。 さらに,これまで断片的な理解が得られていたのみであった宮古市田老地区方言のアクセントの実態を明確化し,その「言語島」性質について議論の俎上に上せることがてきたのは,研究計画時の予測を上回る成果を得ているものの一つである。
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今後の研究の推進方策 |
第3年度はさらに言語実態調査を進めつつ,併行して調査結果分析をなし,成果の発表も予定している。 第3年度の調査予定地点は8地点である。各区域ごとに説明する。【1】「北奥式アクセント」の各地区>基本体系=岩手県中北内陸部アクセント区域(1地点):岩手県盛岡市猪去(中年層)~第1年度で調査の同地区において2音節名詞第Ⅳ・第Ⅴ類の末尾母音の狭広によるアクセント決定減少傾向との結果を得ている。これについて1世代下の中年層での実態の確認する目的もある。【2】「北奥式アクセント」の太平洋沿岸部体系(7地点)=岩手県久慈市大川目・宮古市田老・宮古市鍬ヶ崎・山田町大沢・山田町北浜町・山田町飯岡・大槌町小鎚~久慈市大川目は岩手県沿岸北部の主要地点である。第2年度で「言語島」の状況が分かった宮古市田老地区について中年層での実態を確認する。宮古市鍬ヶ崎は近世期より盛岡藩港として岩手県内では突出して外部の人との接触の多い地区で,方言も宮古市中心部とは相当程度の相違を認めている。山田町では山田湾北部の大沢地区と中心部の北浜町,中心部に隣接する飯岡地区,計3地点を予定している。第1年度の船越地区および第2年度の豊間根地区と合わせ,町内の5地点の資料を揃えることができる。町内再北部:豊間根地区と町内再南部:船越地区と中央部の3地点の実態が明らかとなれば,山田町の全体の実態を捉えて新たな知見が見出されよう。さらに,大槌町小鎚地区は,「北奥式アクセント」の太平洋沿岸部体系地帯の最南端の地点である。同地点の調査により,この地帯最北端青森県上北郡おいらせ町から最南端大槌町小鎚まで全域の資料が揃うこととなる。 また,資料整理と分析を進めるとともに,その内容を論考に発表する計画である。第3年度中の主題は「重起伏調における2箇所の高音部の出現の変異状況」および「宮古市田老地区方言の『言語島』の状況」の2件である。
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