当年度には,全体の結果を総合するとともに,6地点での補充調査を実施した。さらに,次段階の研究「東北地方北部地域における方言アクセントの諸類型に関する研究」について計画調整を進行しつつある。 まず,全体の結果に関する総合では,田中宣廣(2024)「東北地方北部地域アクセントにおける重起伏調の各種変異について」大木一夫・甲田直美編『日本語変異論の現在』(ひつじ書房)ISBN:978-4-8234-1186-1;pp.87-104 が公刊となり,成果発表に至った。 当年度の補充調査は,(いずれも岩手県)久慈市宇部町,下閉伊郡山田町川向町,釜石市礼ヶ口町,遠野市青笹町中沢地区,気仙郡住田町上有住土倉地区,大船渡市大船渡町 の6地点において実施し,可能な限り,上掲拙論の内容にも含めていった。 当年度調査でも新たな結果を得ることができた。久慈市宇部町は,太平洋沿岸地域ではあるものの,同地域の優勢形である重起伏調アクセントではなく,尾高調基調であった。さらに,宮古市や山田町で優勢である下降調(漸降調)が認められたのも新規成果であった。 これら6地点のなかで,遠野市(典型的な内陸部アクセント),釜石市(重起伏調でない沿岸部アクセント),住田町(南奥特殊アクセント)の3地点については,各アクセント性質を代表する地点であるとともに,互いに隣接していて,ちょうど接触地帯のアクセント実態について調査し得たものである。3地点の比較も実施したところ,各地点の特色を,より顕著に理解することができたもので,現在,論考として発表すべく準備進行中である。 この成果は,上掲拙論公刊で留まることなく,さらに発展させるべく,令和6年度7月に予定の岩手県立大学公開講演にて発表しつつ,次段階の「類型化」に向けて整理を進めているとことである。
|