表記体混淆文における漢字片仮名交じり表記部分の片仮名表記について検討をした。検討に際しては、本研究課題によって作成した、内閣文庫蔵『聖徳太子伝宝物集』の本文データを活用した。内閣文庫蔵『聖徳太子伝宝物集』の片仮名には大書及び小書があり、それらは本行に記されているために表記体混淆文における漢字片仮名交じり表記文部分であると判断ができる。その大書及び小書については藤井俊博『院政鎌倉期説話の文章文体研究』(和泉書店、二〇一六年一月)の「第十五章打聞集の表記と単語意識―宣命書きの例外表記を中心に―」「第十六章法華百座聞書抄の宣命書きについて」において詳細に検討されている。『聖徳太子伝宝物集』と『打聞集』『法華百座聞書抄』とは成立年代は異なるものの、大書小書の切り替えという点に着目して『聖徳太子伝宝物集』について検討をしたところ、分析結果として大きく異なる部分は指摘できず、結果として表記体混淆文における漢字片仮名交じり表記文部分は、大書小書の切り替えという部分においては院政期の漢字片仮名交じり文と同質であることが分かった。その成果を纏め、論文「『聖徳太子伝宝物集』における片仮名表記について―小書から大書への切り替えに注目して―」(『文教国文学』第68号、2024年2月、1-9頁)として公表した。研究期間全体を通じては、表記体混淆文における漢字及び片仮名の用法の双方について検討をすることができた。漢字の用法については、『中世真名軍記の研究』(2022年11月、汲古書院)の結章第二節「中世の漢字と訓」において内閣文庫蔵『聖徳太子伝宝物集』にみられる「既」字訓「カクテ」が古辞書等の記載に比して特異であり、中世の漢字片仮名交じり文及び漢字文の用字を検討する上で、中世にあってはこのような漢字と訓との結びつきについても踏まえておかなければならないことを指摘した。
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