研究課題/領域番号 |
20K00804
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
高橋 俊章 山口大学, 教育学部, 教授 (00206822)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 英語習得 / 冠詞 / 特定・不特定 / 日本人英語学習者 / 習得段階 |
研究実績の概要 |
英語を母語(L1)とする人を対象とした言語習得研究(例: Brown, 1973, Maratsos, 1974, 1976) によると、L1幼児は3歳の段階では定・不定の区別を習得していない。しかし、それにも関わらず、指示対象物が特定か不特定かという基準を用いて、英語の冠詞を正確に使用することが示されている。しかしながら、第二言語または外国語としての英語(ESL/EFL)の習得に関する先行研究の多く(例:Ionin・他, 2004)は、英語の冠詞習得における特定・不特定の区別の役割を否定し、特定・不特定の区別を冠詞選択の基準に使用し続けることがESL/EFL英語学習者による英語冠詞の不正確な使用の主因とみなしている。しかし、英語のL1幼児と同様に日本人EFL学習者の場合においても、定-不定の区別を習得していない段階で、特定-非特定の区別を用いて、英語の冠詞を正確に使用できる可能性がある。本研究では、この仮説を検証するために、Nagoya Interlanguage Corpus of English Rebornコーパスに含まれる20のエッセイにおける日本人EFL学習者の英語冠詞の使用状況を分析した。分析の結果、日本人EFL学習者は、定・不定の習得ができている段階ではなかったにも関わらず、①一般的な言及をする複数の指示対象物に対して、無冠詞を正確に使用することが確認できた、②同様に、一般的な言及をする単数の指示対象物(可算)に対して、不定冠詞を正確に使用することが確認できた。③不特定の指示対象物を指す単数の可算名詞については、無冠詞を誤って使用するケースがあったが、定冠詞を使用する例はまれであった。以上の結果から、特定-不特定の区別は、定・不定の区別が習得されていない段階で英語冠詞を正確に使用する上で重要な役割を果たしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第二言語習得研究において、冠詞選択の基準として一般的に広く受け入れられている基準は定・不定の選択基準であった。第一言語習得の研究結果からは、特定・不特定の区別も冠詞選択においてプラスの役割を持っていることが示されていた。また、高橋(2020) の研究結果からも、その可能性が予想されたが、そのことを実証的に示すことは十分にできていなかった。今回の研究により、指示対象物が一般的で、不特定なものをを指す場合については、日本人EFL学習者も無冠詞や不定冠詞を正確に使用していることを示すことができた。 定・不定の区別は、不可算名詞の文脈には適用が困難と考えられる。しかしながら、不可算名詞の場合においても、指示対象物が一般的で不特定なものを示す場合には、ある程度高い正確さで冠詞の選択ができていた。今回の調査において、定冠詞の使用については正確さが低いことを考えると、今回分析の対象とした日本人EFL学習者の大部分は定・不定の習得ができている段階ではなかったと考えられる。それにも関わらず、一般的で、不特定なものを指す指示対象物については不可算名詞の場合であっても、無冠詞や不定冠詞が比較的正確に使用できることを確認できた。
ただし、コロナ感染拡大により、2021年度も遠隔授業の準備に膨大な時間が掛かったため、研究の進捗が遅れ、当初予定していた大学英語教育学会中国・四国支部での発表は出来なかった。 また、調査結果は大部分は調査仮説と一致していたが、一部、定冠詞の習得の部分については、今回の調査では明らかにすることができなかったので、習得プロセスの分析について見直しを行い、データを増やしたうえで、再分析を行う必要がある。 以上から、調査研究は概ね予定通り進んでいるものの、再分析が必要となるため、研究の進捗状況を「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に行った調査結果は大部分は調査仮説と一致していたが、一部、定冠詞の習得の部分については、仮説を検証することが十分にできなかったので、冠詞習得プロセスに関する仮説の検証方法や分析方法について見直しを行い、データを増やしたうえで、再分析を行う必要がある。また、分析の過程で、分析の客観性について透明性を確保する必要が生じたため、客観的な基準を作成した上で、綿密にデータを再分析を行い、その結果を全国英語教育学会で発表の予定です。
コロナ感染の影響が引き続き残っており、3年目に予定していた調査の実施が現在、難しいため、オンラインアンケート形式で、冠詞の選択に関する調査実施をすることに変更する予定です。調査では、可算名詞と不可算名詞の2つの条件下において、指示対象物が、①一般的な指示対象物(複数)、②一般的な指示対象物(単数)、③不特定ではあるが一般的な指示対象物ではないもののそれぞれの場合において日本人EFL学習者の冠詞の選択に変化が生じるか、また、冠詞選択の正確性に変化が生じるかについて分析を行う予定です。分析においては、特に不可算名詞文脈における冠詞の使用に焦点を当て、唯一性の判断が難しい場合でも、一般的な意味で指示対象物を指示している場合や不特定かどうかの判断ができた場合には、そうでない場合より冠詞使用の正確性が高くなることを示す予定です。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大で、研究発表を予定していた研究大会が中止になり、その他関連する学会もオンラインでの開催となったため、旅費が発生しなかったためです。 今年度は、文献調査のために旅費を使用する予定です。また、物品費の残額については、調査に必要な機器と分析ソフトウェア、及び、研究図書を購入する予定です。
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