最終年度は本研究の目的のなかでも、1. 日本の外国人支援の事例研究から外国語教育の目標能力を再検討し、その結果を「メディエーション」に関する国際的な議論に位置づける、2. 多文化共生先進国の事例との比較のなかで明らかになる日本の保育現場の「メディエーション」実践の固有性および養成のあり方の余白を定義する、という二点を重視した。 単一言語主義を自明とする言語教育から、言語文化レパートリーの不均衡や不安定性を肯定的に認め、レパートリー発展の指標とする言語教育への移行をめざす国際シンポジウムにおいて、とくに以下の観点を報告し、意見交換をおこなった。 子どもの二言語使用に関する保育士の態度は、経験により知っている事例の数や地域特性、言語習得に関する信念により差があったが、二言語使用における言語の混乱を恐れ、家族の言語政策に介入する職員の先入観は、保育士研修プログラムの一環として学んだ言語習得理論と、L1の使用が否定的に評価される学校での外国語教育経験、同僚からのアドバイスにより複合的に作られる。経験の積み重ねによって、ミクロのレベルつまり保育士の信念に変化が生じたとしても、メゾのレベルつまり組織のリーダーや自治体の政策レベルでは、「一般的な常識」が支配的であれば、保育士は自分たちの実践を変えることに消極的になる。 他方、保育士研究の補足発展として行なった家庭言語政策に関する調査では、保育士の助言が家庭言語政策に果たす役割はわずかで、そこには親自身の出身国での学習経験など様々な要因が影響していた。
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