研究実績の概要 |
令和2年度は以下の3点を報告する。 第一に, 研究成果を論文にまとめ, 採択となった。論題:「リメディアル学習者を対象とした音読指導のための共同生成的アクションリサーチ」ARELE: annual review of English language education in Japan 31 287-302 概要: 本実践の目的は,日本の大学生が,発音の理解性の改善を中心とした音読指導によって,語句の正確な読み, チャンキング, プロソディ, 音声変化の正確さを含む音韻符号化能力を向上させることである。そのために, 同じ問題意識を持つ実践者と研究者が共同生成的にアクションリサーチに関わるリサーチコミュニティの運営を目指し, 教室内の実践をいかに内省し, 改善につなげたかを評価し報告する。音読指導によって, 音韻符号化能力が向上したことから, 教室固有の問題を解決する手段としての本実践には一定の有効性があった。リサーチコミュニティー内の内省は, 実践者は研究者に対して, 改善を必要とする指導手順を決定する実践の異なる視点を提供することを期待し, 実践の体系的で詳細な報告により, 実践者と研究者の両方が実践を改善するための洞察を得ることができ, 実践者と研究者の協力は,指導の意義と問題を共同で内省するために不可欠である。 第2に, 上記の学会より「全国英語教育学会学会賞・教育奨励賞」(2020年8月)を頂いた。 第3に,国際学会で研究課題に関連した発表を行なった。Effectiveness of explicit pronunciation instruction on L2 word decoding skills: A propensity score analysis@American Association for Applied Linguistics (2021年3月)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度 (1年目)は, 音韻符号化能力を構成する音声学的特徴の特定を行った。目的は, どのような音声学的特徴が音韻符号化能力にどの程度関わるのかを計量することである。 研究方法は, 音韻符号化能力の構成要素として,先行研究で検証されてきた (a) 音素 (子音・母音) の読み,(b) 音調・強勢・リズムなどのプロソディ,(c) 意味の区切りでポーズを置くチャンキング,および (d) 連結・同化・脱落などの音声変化を扱うことした。音韻符号化能力を「正確な音声で文字を音声化する能力」として操作化し,単語命名課題・書き取り課題・英文音読課題で測定した (Ehri, 2005)。日本人英語学習者を対象に,協力者の音韻符号化能力が,上記4つの音声学的特徴でどの程度説明されるのかを構造方程式モデリングにより明らかにする。 期待される効果としては, 音声学的・認知的な観点から指導項目を決める基礎データ収集をできることである。また, 評価に多相ラッシュ分析を用いることで,評価者間の厳しさ,評価規準の違いによる採点のバイアス,および評価基準の適切さを考慮した音読指導のための評価方法を開発できる。 現在のところ、 上記の研究内容は概ね遂行できている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度(2年目)は, 音韻符号化能力を向上させる音読指導の構成要素の解明をする。目的は, 1年目の結果に基づく音読指導が音韻符号化能力をどの程度向上させるのかを計量する。 研究方法は, 音韻符号化能力と強く関係する音声学的特徴 (1年目の結果に基づく) を中心に, 音声学的知識の明示的指導や発音矯正といった「文字の読みの指導」を通して音韻符号化能力がどのように発達するのかを検証する。傾向スコア分析により, 各音声項目に対する指導の効果量を算出する。さらに, 音韻情報に対する意識が向上することで, 文字と音の対応関係に対する意識がどのように変化するのかを明らかにする。期待される成果としては, 音韻情報に認知的注意を促す教育的介入が, 文字と音の対応といった外国語のリテラシー能力をどのように発達させるかが明らかになる。
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