研究課題
科研費の対象地域は信濃国(現・長野県)北部及び南部、相模国(現・神奈川県中西部)だが、最終年度である今年度は信濃国北部、具体的には上高井郡小布施町に拠点を置いて明治以後活躍した商家の歴史資料調査を重点的に行った。本調査は新型コロナウイルス感染症の影響で数年間実施が延期されていたものである。この家は、もともと越後国頚城郡の漁村(現・新潟県上越市大潟区)に本拠を持っていたが、一族が近隣の港町直江津と小布施、そして北海道瀬棚郡虻羅村(現・せたな町)に分かれ、相互に婚姻関係を幾重にも取り結びながら同族団全体で漁業及び漁獲物流通に携わった。調査では同家の資料から遠隔地の地方都市・村落間を取り結ぶネットワークの存在を検出しつつあり、さらに調査を深めていく必要がある。本年度はいくつかの研究成果を挙げることができた。編著『身分社会の生き方』に掲載した論文「百姓と商人の間」では、信濃国高井郡中野村(現・長野県中野市)の町場を中心に、周辺の広範囲の村々にわたって展開した商人仲間に注目し、仲間の構造と構成員の社会的位相、取り扱う商品(荒物・小間物など)の特質、商品流通が取り結ぶ三都と地方都市、農村の間で取り結ばれた関係について解明した。論文「社会集団史を活かす」では、塚田孝編『社会集団史』(山川出版社、2022年)の内容を紹介しつつ、前近代史研究の意味、社会集団と人間の生存・生活を結びつける視角の意義、近世における御用の論理と社会集団の関係について指摘しつつ、近世を「都市の時代」として位置づけ、町の開かれた/閉じた両義性に注目しつつ町方固有の社会集団の特質について論じた。さらに共著『日本近世史入門』では、論文「都市社会」を執筆し、町を起点として都市を検討することの意義、生活・生存の場としての都市という問題設定、地方都市固有の研究課題、都市社会と在地社会との関係についてまとめ、研究課題を指摘した。
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部落問題研究
巻: 245 ページ: 38-58