研究課題/領域番号 |
20K01023
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
三品 英憲 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60511300)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 国共内戦 / 土地改革 / 中国人民政治協商会議 / 共同綱領 / 人民代表大会 / 中国土地法大綱 / 中国共産党 |
研究実績の概要 |
2022年10月2日に大阪商業大学梅田サテライトで開催された中国現代史研究会秋季研究集会において、「戦後国共内戦期の『革命』と建国・政権構想-土地改革・人民政治協商会議・人民代表大会」と題する発表を行なった(単独発表)。この研究発表の概容は以下のとおりである。 1948年以降、中国共産党は新国家をどのように成立させるかという建国構想に着手した。中華人民共和国の成立に当たって採択された共同綱領は、将来的に普通選挙を実施し各級人民代表大会を開いて各級政府を組織することを約束していたが、それには土地改革の完成が条件になっていた。普通選挙は土地改革によって「地主・旧富農」の権力基盤が徹底的に破壊され、「人民」が基層社会において権力を完全に奪取してから、その革命の成果を固定するために行われるものであった。このような構想は、国共内戦末期に共産党支配地域で現実化した統治体制と共通性を持っていた。1948年春以降、村レベルで農民代表会が選出され、農民代表会を基盤として組織された区・県代表会が権力機関となったが、この農民代表会の中核を担った中農は、中国土地法大綱下で闘争を担い土地を獲得して階層上昇を遂げた「新中農」、すなわち元「貧雇農」であった。農民代表会は統一戦線的な組織ではなく土地改革という革命の結果を固定するための組織であった。このような内戦最末期の支配体制の構造と人民代表大会との共通性から考えると、人民政治協商会議の開催と共同綱領の決議について新たに位置づけなおす必要が生じる。人民政治協商会議と共同綱領は、新国家が統一戦線的に構成され統一戦線的に運営されることを示すことを目的として設置・決定されたのではなく、「全人民の支持」を標榜して国家と政府の正統性を調達するために設置された。1949年10月の人民共和国の樹立は、共産党にとってあくまで長い中国革命の通過点に過ぎなかった。以上である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、戦後国共内戦期の後半(1947年3月~49年)を対象として、中国共産党が支配地域において実施した土地改革とその急進化が党と社会にどのような影響を与え、その結果、中華人民共和国をどのような構造を持つ国家として成立させたのかを、中国(特に華北)社会の構造的特質を踏まえつつ明らかにすることである。この研究目的に照らしたとき、2022年度の実績(成果)は、内戦最末期の1948年から1949年にかけて、中国共産党が新たに視野に入ってきた新国家の樹立と政権の運営についてどのような構想を持っていたのかを明らかにしたものであり、研究の対象とした期間の「ゴール」に当たる時期の共産党の農村革命戦略と政権構想の関係を解明したものであると位置づけられる。この研究成果により、本研究の主題である戦後国共内戦期の土地改革とその急進化が、中華人民共和国の設立にどのような影響を与え、中華人民共和国をどのような国家として準備したのかが明らかとなった。この点で本研究は着実に進展していると評価できるが、その一方で原稿化して発表するには至らなかった。以上の状況を総合的に判断して「おおむね順調に進展している。」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究実績を原稿化し、査読付きの学術雑誌に発表する。同時に、これまでの研究成果をまとめて研究書を著し、広く社会に還元するとともに学界の批評を仰ぎたい。その過程では、コロナ禍のために再三延期してきた海外(特に台湾の法務部調査局)への資料調査を再開し、この間の研究の進捗によって不足していることが明らかとなった資料を補いたい。なお、もしコロナの感染状況が再び悪化し渡航規制などの措置が取られた場合には、渡航を断念せざるを得なくなることが予想されるが、その場合には、資料的な不足部分を補うことを諦めてでも研究成果の公開を優先する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大を原因とする渡航制限により、予定していた海外における調査旅行を実施できなかった。また、国内で開催された学会もオンライン開催が多くなり、国内の旅費も支出する必要が少なかった。以上から、繰越金が発生した。2023年度は新型コロナウイルス感染状況が世界的にも一段落して渡航制限が解除されつつあるため、順延していた資料調査旅行を実施できる見込みである。また学会も順次対面での開催に戻りつつあるため、国内旅費としての支出も増加する見込みである。
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