研究課題/領域番号 |
20K01040
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
福士 純 岡山大学, 大学院社会文化科学研究科, 教授 (60600947)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カナダ史 / イギリス帝国史 / カナダ海軍 / イギリス海軍 / イギリス帝国連邦運動 / ナショナリズム |
研究実績の概要 |
課題『カナダ海軍の創設とイギリス帝国防衛構想』の研究実施にあたり、令和2年度は交付申請書に記載した「研究実施計画」に基づき、以下の点を中心に研究を進めた。 一つ目は、オンライン史料の収集、分析である。令和2年度は、コロナ禍による渡航制限、当初予定していた海外での調査を行うことができなかった。そのため、カナダやイギリスの文書館が提供するオンライン史料の分析を行った。具体的には、当該期のカナダ首相をはじめとする政治家達のイギリス帝国防衛に対する認識や、議会におけるカナダ海軍創設をめぐる論争に関して速記録を元に分析を行った。さらに、カナダ議会に提出された海軍創設にかかる報告書についての検討も併せて行った。 明らかになったのは、野党保守党によるカナダの独自海軍の否定、イギリスへの海軍費の拠出とイギリス海軍によるカナダ防衛案であれ、与党自由党によるカナダの独自海軍の創設案であれ、決してイギリスとの軍事的紐帯を弱めることを意図したものではなかったということである。無論、イギリスによる強力な帝国防衛の傘から外れることの不利益ということも考慮すべきではあるが、自由党案であっても、独自海軍を創設することでカナダが主体的にイギリス帝国防衛への参画を深めることを目指したものであった。言い換えれば、カナダにとっての帝国防衛構想は、野党保守党であれ、与党自由党であれ、帝国との軍事的統合強化を志向するものであった。 その背後にあるのは、従来の研究でも指摘される保守党によるイギリス本国を頂点とする集権的な帝国統合構想と、自由党による水平的、分権的な帝国統合構想であると思われるが、その防衛構想との関連性はいまだ史料的な裏付けが十分ではない。こうした点について、引き続き検討していきたい。しかし、海外渡航が制限され、一次史料の入手の面での制約があるため、そうした点も考慮しながら次年度以降の研究を進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は、上記の「研究業績の概要」でも若干記したように、申請時に予想していなかった新型コロナウィルスの感染拡大のため、当初の「研究実施計画」で予定していた海外での史料調査を行うことが出来ず、昨年度までに収集した史料、そして国内にて入手可能な史料を利用して研究を進めた。加えて、上記理由にかかる業務量の増加のために、研究自体に割くことが出来る時間も減少してしまい、計画通りの研究を進めることが出来なかった。「実施計画」通りに研究を遂行できなかったことは大変遺憾である。本年度に関しても、海外での史料調査が可能となるかは不透明ではあるが、学内業務の時間を融通して研究時間を捻出して入手済みの史料、二次文献を元に研究を進めたい。また昨年度に関しては、イギリス本国とカナダの間のブリティッシュネスに基づく感情的紐帯、そして軍事的紐帯を分析した論文が刊行された。これらの内容は、本研究課題の成果を反映したものである。
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今後の研究の推進方策 |
「研究業績の概要」、「現在までの達成度」の箇所でも記したように、令和2年度は研究計画を予定にしたがって進めることが出来なかった。加えて、令和3年度も予定していた海外史料調査を行うことが困難であることが予想されるため、収集した史料の分析を予定していた令和3年度の研究も困難が予想される。そのため、令和3年度の研究の推進方策に関しても、昨年度から引き続き入手済みの史料、二次文献の読解、さらにオンラインでアクセス可能な史料の分析が中心となる。具体的には、第一にカナダ政府が提供するカナダ議会の議事録においてカナダ海軍創設に関する議論に加えて、それ以外の時期も含めたカナダによる帝国防衛構想への参画をめぐる論争について分析することで、本研究の対象となる1910年のカナダ海軍創設の意義をより明確化する。加えて、当初計画で予定していたカナダ首相W.ローリエや保守党党首R.ボーデンといった主要政治家以外の文書も、カナダ国立文書館のデータベースからオンラインでアクセスが出来るので、それらの史料の読解を深めることで、自由党、保守党両党の主要政治家のカナダ海軍、帝国防衛構想に対する見解について検討を深める。これらの史料の収集、分析を通して、申請時に予定していたようには進められないものの、第一次世界大戦直前の時期においてカナダが帝国防衛についていかなる見解を抱いていたのか、カナダ海軍創設の意義は何かという申請時の研究目的の解明を引き続き目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付していただく研究費の大半は、申請書や上記「今後の研究の推進方策」で記したように、カナダ、イギリス、オーストラリアでの史料調査に用いられる予定である。具体的には、渡航費、宿泊費、史料複写代に使用する予定である。残りは、関連する文献、論文の収集等に充てたい。しかし、コロナ禍のため、海外調査に赴くことが出来ず、令和2年度は二次文献を若干購入した以外に研究費を使用することが出来なかった。しかし、研究費は海外調査のために予定しているものであり、今後海外渡航の制限が解除された際には、ただちに調査に赴けるようにしておきたい。加えて、海外渡航が制限されているため、令和3年度は二次文献調査も引き続き力を入れたいと考えており、この点にも研究費を使用する予定である。
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