研究課題/領域番号 |
20K01069
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
穐山 洋子 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (10594236)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | スイス社会 / 社会福祉 / 福祉的強制措置 / 人権意識 / 子ども観 / C.A. ロースリ |
研究実績の概要 |
2021年度も前年度に引き続き、新型コロナウィルスの感染拡大により、スイスでの資料調査ができなかったため、入手可能な史・資料をもとに主に以下の二つのテーマついて研究を進めた。 1.20世紀後半のスイス社会と福祉的強制措置 スイスでは1981年まで裁判所の判断なしに行政による福祉的強制措置が行われていた。第二次世界大戦以降、多くのヨーロッパ諸国で人権理念が確立し、人権が尊重される一方で、なぜスイスでは20世紀後半まで人権を無視した福祉的強制措置が行われていたのかを、スイス社会と国際関係、特に欧州評議会との関係の観点から人権意識の変遷を考察した。また本問題に対する政府の公式謝罪までの過程も明らかにした。本研究の成果は「20世紀後半のスイス社会と福祉的強制措置-人権意識の変遷と公式謝罪までの過程」にて公表した。 2.行政による強制的施設収容と作家C. A.ロースリの活動 20世紀スイスの福祉的強制措置うち「行政により強制収容・拘禁された青少年および成人」関して、政府より委任された独立専門家委員会(UEK)の報告書(全10巻)を中心に考察を進めた。また、婚外子として生まれ、行政の判断により後見の対象になり、裁判所の判断なしに少年刑務所に収監された経験をもつ作家でジャーナリストのC. A. ロースリ(1877-1959年)の経験と、彼の本問題に関する取り組みの考察を進めた。ロースリは1920年代から公に強制的施設収容を人権侵害であると訴え、多くの文書や著作を書いたが、彼の訴えは当時のスイス社会で大きな反響を呼ぶことがなかった。ロースリの訴えを分析するとともに、なぜ彼の主張が当時のスイス社会で受け入れられなかったのか、考察を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究開始から2年にわたり新型コロナウィルスの感染拡大により、本研究の根幹をなすスイスの文書館でのスイス公益協会や 救貧協会などの資料調査及び収集ができていないため、当初の研究計画からは遅れている。 そのため入手可能な二次文献やオンライン資料を基に別の観点から本研究にアプローチしている。 その新たなアプローチの一つがC.A.ロースリの活動に関する研究である。彼の著作は作品集として刊行されているため十分な資料が入手できている。ロースリを中心に本問題を研究することで1920-30年代の福祉的強制措置に関する新たな知見が得られるよう研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に着手した作家C.A.ロースリの「行政による強制保護・拘禁」に反対する文章や著書の考察を引き続き行い、ロースリの主張と子どもの人権に関する分析を通じてロースリの子ども観を考察する。これに加えてロースリの訴えが当時のスイス社会に受け入れられなかった要因も考察する。 新型コロナウィルスの感染が収束し、スイスでの現地調査が可能になった場合は、スイス公益協会、青少年福祉財団および救貧協会に関する資料調査及び資料収集を行い、どのような子どもが強制保護の対象になったのかについて研究を進める。 もし、現地調査が2022年度も不可能な場合は、独立専門家委員会による包括的な研究資料がある「行政により強制収容・拘禁された青少年」について主に被害者の証言をもとに研究を続ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に引き続き2021年度もスイスでの現地調査が行えなかった。現地調査が可能になり次第、現地調査のための旅費に充てたい。また、スイスの図書館や文書館で複写依頼が可能な史・資料に関してはその複写・送付費用に充てたい。
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