研究課題/領域番号 |
20K01186
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小谷 真吾 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (90375600)
|
研究分担者 |
河合 文 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 助教 (30818571)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 人口人類学 / 狩猟採集民 / マレーシア / オラン・アスリ / 小集団人口学 |
研究実績の概要 |
本研究は、現代東南アジアの狩猟採集民における人口学的現象を人類学的に研究するための理論的、方法論的枠組みを確立し、生起する問題を考察していくことを目的とする。主な対象は、マレーシア・クランタン州のポス・ルビルとクアラ・コ、およびトレンガヌ州のスンガイ・ブルアの互いに隣接する3つの定住村落に居住するオラン・アスリ集団である。2020年度は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、フィールドワークが一切実施できない状況となった。人類学的研究を第一の目的とする本研究においてフィールドワークの実施は研究遂行に必須であり、本研究が成果を出していくためにこのような状況が大きな困難であることは間違いない。 ただ、代表者、分担者ともに、対象集団に対して人類学的フィールドワークを継続的に実施し、個人的関係を醸成してきた経緯から、オンラインでのインタビューを行うことも可能である。マレーシアにおいてもコロナ感染拡大対策の一環として、移動の制限が行われているが、本研究の対象集団におけるその対策の実施状況がオンラインで聞き取れている。狩猟採集を生業とする遊動的居住形態を維持してきた集団が、村落に定住することによって、移動が制限されることによって、その人口動態がどのように変容するかという問いは、本研究の分析項目の一つである。フィールドワークが実施できない状況が続く可能性を考慮に入れ、オンラインで聞き取れたデータを人口動態のデータとどのように関係づけるか試行中である。 対象集団とのオンライン上でのコミュニケーションおよび人口統計データの収集のため、2020年度は現地カウンターパートとの連携に注力した。その一環として、カウンターパートであるスルタンザイナルアビディン大学が2021年度企画しているオンライン上での人文科学的研究の遂行に関する国際会議の基調講演者として参画することを予定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、フィールドワークが一切実施できない状況となった。人類学的研究を第一の目的とする本研究においてフィールドワークの実施は研究遂行に必須であり、本研究が成果を出していくためにこのような状況が大きな困難であることは間違いない。研究計画では、2020年度から対象集団における人口動態に関するフィールドデータを収集する予定であったが、その計画は進捗していない。 一方、カウンターパートとの関係の醸成は進捗しており、スルタンザイナルアビディン大学が2021年度企画しているオンライン上での人文科学的研究の遂行に関する国際会議の実施について協力関係を構築した。この国際会議は、本研究の具体的なデータについて検討するものではないが、オンライン上での人類学的研究の実施も議題として提示する予定である。今後のコロナ感染拡大の状況によって現地フィールドワークが一切行えない状況になっても、本研究の目的を達成できる可能性を模索する機会になると考えられる。2020年度はこれ以外にも、分担者がカウンターパートが主催、あるいは共催する国際会議に参加し、これまでの研究成果を発表し、また本研究の今後の展開を模索することを試みた。 2020年度は研究内容の面でも、本研究に関連したこれまでの調査データを用いて、代表者、分担者共に、狩猟採集という生業の再検討、あるいは人口人類学という枠組みの検討について論考を発表することにも注力した。最新のフィールドデータではなくとも、研究目的の学術的位置づけをはかる試みは継続して行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルスの感染拡大に対する日本およびマレーシアの状況が改善され次第、現地フィールド調査を実施する。具体的には、参与観察とインタビューにより、人々が直面する問題群を記述していく。生活時間調査および食餌調査を平行して実施することにより、定住の状況、資源の枯渇の状況、教育・就業の状況、貧困の程度、集団成員間の格差にかんするデータを収集する。収集した民族誌的データを統計データと比較し、また状況の異なる3村落を比較することにより、人口増加、定住化と社会経済的問題群の関係性を分析する。 また、マレーシア統計局およびオラン・アスリ開発局の発行、所有する統計データを、調査許可をとった上で入手し、センサスの基礎とする。オラン・アスリにかんする統計は欠損が極めて多く、定住村落に「居住」する人々に対するインタビューによってセンサスを補完する。社会経済的状態にかんする統計も補完した上で、センサスとの関係を分析する。 上記調査が実施できない場合でも、カウンターパートであるスルタンザイナルアビディン大学が開催する"The International Conference on Languages and Communication (ICLC 2021)"に参画し、信頼できる統計データを入手できる関係を構築する。また、カウンターパートを通じて、対象集団の日常生活にかんする情報をオンラインで収集する方法、人々の生の声を電話やSNS等で聞き取る方法を構築していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に海外調査を行わなかったため、それに向けて申請していた旅費、ガイド等への謝金、調査に必要な機材の物品費を使用しなかった。2021年度に問題なく海外調査が行える場合、前年度の研究の遅れを取り戻すべくより長期間の調査が必要と考えられる。そのための予算は前年度からの繰り越しで補う予定である。
|